労災保険法
第三者行為災害

労災保険における「第三者行為災害」とは、職場の上司・同僚以外の第三者(加害者)の行為によって労災が発生した場合です。

  • 通勤中の交通事故
  • 配送中に他車に衝突された
  • 他社作業員のミスによる事故

このような場合、

被災労働者は

  • 労災保険
  • 第三者(加害者)への損害賠償請求

の両方が可能になります。

しかし、

同じ損害について二重取りはできません。

 

目 次

  1. 求償(労災保険給付先行の場合)
  2. 自動車損害賠償保障法との関係
  3. 控除(損害賠償先行の場合)
  4. 示談との関係
  5. 労災保険給付側での調整
  6. 求償と控除の比較

求償(労災保険給付先行の場合)

 

流れ

第三者が事故を起こす

    ↓

政府(労災)が先に保険給付

    ↓

政府が第三者へ請求


 
これを 求償 といいます。
 
 

法律上の意味

政府は、第三者行為災害において保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、受給者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得します。 つまり、

被災者が本来持っていた損害賠償請求権を、政府が代わりに取得する

ということです。

これを 代位取得 といいます。(労災保険法12条の4第1項)

 

求償の対象となる保険給付

求償の対象となるのは、

受給権者が、保険給付と同一の事由について第三者に請求できる損害賠償額の範囲内 です。

また、求償の対象となる保険給付は、

災害発生後5年以内に支給すべき保険給付

とされています。(令和2年3月30日 基発0330第33号)

 

 

5年経過後の取扱い

災害発生後5年を経過した場合は、

たとえそれまでの求償額の合計が損害賠償額に満たない場合であっても、

求償は打ち切られます。


イメージ

例えば

損害額300万円

政府が労災保険給付を支給

政府は、給付額の限度で第三者に求償

ただし、対象は災害発生後5年以内に支給すべき保険給付まで

5年経過後は、未回収分があっても求償終了

 

 

ここまでの一言まとめ

労災が先に給付した場合、政府は給付額の限度で被災者の損害賠償請求権を代位取得して第三者に求償する。ただし、求償対象は同一事由の損害賠償額の範囲内で、災害発生後5年以内に支給すべき保険給付に限られる。

 

 

自動車損害賠償保障法との関係自賠責との関係

交通事故では

原則として

自賠責

 ↓

労災


の順番が望ましいとされています。

理由

給付事務を円滑にするためです。 ただし、

どちらを先に請求するかは被災者の自由です。

控除(損害賠償先行の場合)

逆に

第三者から先に賠償金を受けた場合

第三者が先に支払う

   ↓

政府はその分だけ支払わない


これを 控除

といいます。


損害100万円

加害者から80万円受領

労災は残り20万円だけ支給

示談との関係

一言で総まとめ

「第三者災害で受給権者と第三者との間に真正な全部示談が成立すると、政府は求償権を取得できなくなるため保険給付を行わない。示談金相当額だけが不支給となるのではなく、保険給付自体が行われない点が重要である。」

 

① 原則

 

第三者災害で、

受給権者と第三者との間で「全部示談」が成立した場合は、

政府は保険給付を行いません。

(昭和38年6月17日 基発687号)


なぜ?

 

政府は、

労災保険給付を行った場合、

受給権者が第三者に対して有する

**損害賠償請求権を代位取得(求償)**します。

しかし、

受給権者がその請求権を放棄してしまうと、

政府が取得できる権利もなくなります。

そのため、

政府は保険給付を行いません。


全部示談とは

 

例えば、

「今後一切請求しません。」

「本件について、今後一切の請求権を放棄します。」

という内容の示談です。

つまり、

損害賠償請求権の全部を放棄する示談

をいいます。


重要(通達)

 

受給権者と第三者との間で、

要件を満たした示談が成立した場合には、

政府は

「保険給付は行わない」

のであって、

「受給権者が受領した示談金の限度で保険給付を行わない」

という意味ではありません。

(昭和38年6月17日 基発687号)

 

ポイント

 

❌ 示談金100万円受領

→ 残額だけ労災給付

ではありません。

⭕ 要件を満たす全部示談なら

保険給付そのものが行われません。


示談成立の要件

 

全部示談として保険給付が制限されるためには、

次の2つの要件を満たす必要があります。

 

① 示談が真正に成立していること

適法かつ有効な示談であること。


② 示談の内容が全部填補を目的としていること

受給権者が第三者に対して有する

損害賠償請求権(保険給付と同一事由に基づくもの)

について、

全部の填補を目的とした示談

であること。 つまり、

全部示談

であることが必要です。


 

損害額300万円

第三者から100万円受領

「今後一切請求しません」

という全部示談成立

労災保険請求

保険給付は行われません。

※100万円だけが控除されるのではありません。


示談として認められない場合

 

次のような場合は、

真正な示談とは認められません。

  • 詐欺
  • 強迫
  • 錯誤
  • 心裡留保(一定の場合)

このような場合は、

示談自体が無効・取消しの対象となるため、

保険給付には影響しません。

労災保険給付側での調整

 

事業主からの損害賠償との調整

第三者ではなく

事業主

が損害賠償をした場合にも

支給調整があります。 ただし

恣意的な調整を防ぐため

労働政策審議会の議を経て、厚生労働大臣が定める基準(支給調整基準)

によって調整されます。


前払一時金との関係

障害年金・遺族年金には

前払一時金制度

があります。

前払一時金の最高限度額に達するまでの年金部分は、

事業主から損害賠償を受けても

支給調整されません。

これは、事業主にはその部分について履行猶予が認められているためです。

仮に事業主が履行猶予の利益を放棄して先に賠償したとしても、その部分については労災保険からも給付されます

求償と控除の比較

項目 求償 控除
根拠 労災保険法12条の4第1項 労災保険法12条の4第2項
順序 先に労災保険給付が行われた場合 先に損害賠償を受けた場合
効果 政府が第三者に対する損害賠償請求権を取得する(求償) 政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる(控除)
対象期間 災害発生後5年以内に支給すべき保険給付 災害発生後7年以内に支給事由が生じた保険給付
期間経過後 5年経過後は、求償額が損害賠償額に満たなくても求償は打ち切られる 7年を超えて支給事由が生じた保険給付は控除の対象外

求償(労災保険給付先行)

政府は、第三者行為災害において保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、受給者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得します(求償)。

この場合、対象となる保険給付は、災害発生後5年以内に支給すべき保険給付です。

なお、災害発生後5年を経過すると、求償額の合計が損害賠償額に満たない場合であっても、求償は打ち切られます。
(労災保険法12条の4第1項、令和2年3月30日基発0330第33号)


控除(損害賠償先行)

政府は、第三者行為災害において、保険給付を受けるべき者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、その価額の限度で保険給付をしないことができます(控除)。

この場合、控除の対象となる保険給付は、災害発生後7年以内に支給事由が生じた保険給付です。

したがって、災害発生後7年を超えて支給事由が生じた保険給付は、第三者から損害賠償を受けていても控除の対象とはなりません。
(労災保険法12条の4第2項、平成25年3月29日基発0329第11号)

ポイント

  • 求償:5年(災害発生後5年以内に支給すべき保険給付)
  • 控除:7年(災害発生後7年以内に支給事由が生じた保険給付)

「求償は5年、控除は7年」と対比して覚えると混同しにくくなります。

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