割増賃金

時間外や深夜(午後10時〜午前5時)に労働させた場合には1時間当たりの賃金の25%以上増し、法定休日労働させた場合には1時間当たりの賃金の35%以上増しの割増賃金を支払わなければなりません。

 

区分 割増率
時間外労働 25%
月60時間超 50%
法定休日労働 35%
深夜業 25%
時間外+深夜 50%
月60時間超+深夜 75%
休日+深夜 60%

そして重要論点は

✅ 36協定がなくても割増賃金は必要

✅ 所定休日労働=休日労働ではない

✅ 休日労働に時間外労働の概念はない

✅ 家族手当・通勤手当・住宅手当は算定基礎から除外

 

目次

  1. いつ割増賃金が必要か
  2. 36協定がなくても割増賃金は必要
  3. 割増率
  4. 重複した場合
  5. 法定休日と所定休日の違い
  6. 休日労働には時間外労働の概念がない
  7. 休日をまたいだ場合
  8. 変形労働時間制
  9. 割増賃金の計算に入れない賃金
  10. 定額残業代と割増賃金
  11. 「通常の賃金部分」と「割増賃金部分」とを明確に判別

いつ割増賃金が必要か

大きく3つです。

区分 内容
時間外労働 法定労働時間超
休日労働 法定休日労働
深夜業 22時~5時

まず法定労働時間は

  • 1日8時間
  • 1週40時間(特例44時間)

例えば

9時間働いた

↓1時間が時間外労働

割増賃金必要

36協定がなくても割増賃金は必要

 

誤解しやすいですが

36協定

時間外労働を「適法化」するもの


しかし

36協定がない

↓違法な残業

割増賃金不要

ではありません。


判例(昭和35年7月14日最高裁判所第一小法廷小島撚糸事件

によると

違法な残業であっても割増賃金は払わなければならない


つまり

状況 割増賃金
適法な残業 必要
違法な残業 必要

割増率

労働 割増率
時間外 25%
月60時間超 50%
法定休日 35%
深夜 25%

重複した場合

割増率は足し算します。


時間外+深夜

残業が22時以降


25% + 25%

50%


月60時間超 + 深夜

50% + 25%

75%


休日+深夜

35% + 25%

60%

法定休日と所定休日の違い

超重要です。


法定休日

法律上最低限必要

週1日


所定休日

会社が独自に定めた休日


例えば

土日休み の場合

 

日曜 →法定休日

土曜 →所定休日

というケースが多いです。


↓土曜だけ出勤

日曜休み

この場合 法定休日は確保されているので

休日労働になりません。

したがって

35%割増不要

ただし 週40時間を超えたら

時間外労働として25%

になります。

休日労働には時間外労働の概念がない

法定休日に

15時間働いた

としても

35% だけです。

8時間超だから

25%追加

ではありません。

つまり

休日労働

何時間働いても

35%

深夜になったら

35%+25%=60%

休日をまたいだ場合

例えば

土曜23時 ~ 日曜3時

まで働いた

法定休日が日曜なら

23時~24時

時間外労働

0時~3時

休日労働

となります。


ポイントは

午前0時で区切る ことです。

変形労働時間制

1か月変形では

単純に

8時間超

残業

ではありません。


あらかじめ

10時間勤務の日

を設定していれば

その10時間までは残業になりません。


次の3段階で判断します。


①1日

予定時間超


②1週間

予定時間超


③変形期間全体

総枠超


これで判断します。

割増賃金の計算に入れない賃金

 

時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金は、原則として、

「通常の労働時間または労働日の賃金」

を基礎として計算します。

ただし、すべての賃金を割増賃金の計算に入れるわけではありません。

労働基準法では、次の賃金について、割増賃金の算定基礎から除外することが認められています。

 

算定基礎から除外される7種類

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

なぜこれらの賃金は除外されるのか

除外される賃金は、大きく2つに分けて考えると分かりやすくなります。

 

① 労働者の「個人的事情」に基づく手当

次の5つです。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当

これらは、労働そのものの価値というより、

扶養家族の有無、通勤距離、別居の有無、子どもの教育、住宅費など、労働者個人の事情に応じて支給される性格の賃金

であるため、割増賃金の算定基礎から除外されています。

つまり、

仕事の内容や労働時間ではなく、個人的事情によって金額が変わる手当

という点がポイントです。


② 臨時・長期間ごとに支払われる賃金

残りの2つは、

  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

臨時に支払われた賃金

臨時・突発的な事情によって支払われる賃金です。

例えば、

  • 結婚手当
  • 出産手当
  • 慶弔手当

などが典型です。

通常の労働に対して継続的に支払われる賃金とは性質が異なるため、割増賃金の算定基礎から除外されます。


1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

例えば、

  • 3か月ごと
  • 6か月ごと
  • 年1回

など、

1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

代表的なものとして、一定期間ごとに支給される賞与・ボーナスなどがあります。

このような賃金は、毎月の通常賃金とは支給期間が異なり、割増賃金の計算に組み込むことが技術的に困難であることなどから、算定基礎から除外されています。


覚え方

割増賃金の算定基礎から除外される賃金は、

「個人的事情による手当 + 臨時・賞与系」

と整理すると覚えやすくなります。

 

個人的事情

家族・通勤・別居・子女教育・住宅

 

臨時・賞与系

臨時賃金・1か月超ごとの賃金


次のような賃金は、原則として割増賃金の算定基礎に入ります。

  • 基本給
  • 役職手当
  • 職務手当
  • 資格手当
  • 精皆勤手当

これらは、労働者の個人的事情ではなく、

職務・能力・勤務状況などに対応して支払われる賃金

だからです。


手当の「名称」だけで判断しない

ここは重要です。

「家族手当」「住宅手当」「通勤手当」という名称が付いていれば、必ず割増賃金の算定基礎から除外できるわけではありません。

実際にどのような条件・基準で支払われているか

によって判断します。

例えば、家族の有無や人数と関係なく、全社員に一律1万円を「家族手当」という名称で支給している場合には、

実質的には法令上の「家族手当」とはいえず、割増賃金の算定基礎に含めなければならない場合があります。

住宅手当についても同様で、

住宅費など個人的事情に応じて算定されているか

が重要になります。

名称ではなく、支給条件・支給実態で判断する

ということです。


平均賃金と割増賃金を混同しない

ここは非常に重要です。

平均賃金の計算から除外する賃金と、割増賃金の算定基礎から除外する賃金は同じではありません。

  平均賃金 割増賃金
基本的な考え方 直前3か月の賃金を基礎に計算 通常の労働時間・労働日の賃金を基礎に計算
家族手当 原則として算入 原則として除外
通勤手当 原則として算入 原則として除外
別居手当 原則として算入 原則として除外
子女教育手当 原則として算入 原則として除外
住宅手当 原則として算入 原則として除外
臨時に支払われた賃金 除外 除外
長期間ごとの賃金 3か月を超える期間ごとなら除外 1か月を超える期間ごとなら除外

この違いには注意が必要です。


特に注意「3か月」と「1か月」

平均賃金と割増賃金では、基準となる期間も違います。

 

平均賃金

3か月を超える期間ごとに支払われる賃金

を除外します。

 

割増賃金

1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

を除外します。

したがって、例えば、

3か月ごとに支払われる賃金

については、

  • 平均賃金 → 「3か月を超えて」いないため、当然には除外されない
  • 割増賃金 → 「1か月を超えて」いるため、除外対象となる

という違いが生じます。


まとめ

割増賃金の算定基礎から除外されるのは、

① 個人的事情に基づく5つの手当

② 臨時に支払われる賃金

③ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

覚え方は、

「個人的事情による手当+臨時・賞与系」

 

ただし、

手当の名称だけで除外できるわけではありません。

家族手当・通勤手当・住宅手当などについては、実際の支給条件を確認して、法令上の除外賃金に該当するかを判断する必要があります。

また、

平均賃金では通勤手当・家族手当等は原則として算入する 一方、

割増賃金では一定の場合に算定基礎から除外する

という違いがあります。

「平均賃金」と「割増賃金」の計算を混同しないことが重要です。

定額残業代と割増賃金

「通常の賃金部分」と「割増賃金部分」とを明確に判別

 

熊本総合運輸事件(最判令和5年3月10日)

 

事案

運送会社Yは、労基署の指導を受けて賃金制度を変更し、「基本給・基本歩合給・勤続手当」に加え、「時間外手当」と「調整手当」を支給する給与体系を導入しました。

しかし、実際には月ごとの賃金総額は従来とほとんど変わらず、調整手当は賃金総額から基本給等と時間外手当を差し引いた残額として支給されていました。

そこで労働者Xは、本件割増賃金は実質的な割増賃金ではなく、労基法37条の割増賃金が支払われていないとして未払割増賃金を請求しました。


判旨

最高裁は、労基法37条の割増賃金として認められるためには、「通常の賃金部分」と「割増賃金部分」とを明確に判別できることが必要であるとしました。

そして、本件の賃金体系では、「時間外手当」だけを切り離して判断するのではなく、時間外手当と調整手当を合わせた「本件割増賃金」全体をみて、それが時間外労働等の対価として支払われているのかを検討すべきであるとしました。

最高裁は、次のように判示しています。

「そうすると、本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものといえるか否かを検討するに当たっては、本件時間外手当と調整手当から成る本件割増賃金が、全体として時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かを問題とすべきこととなる。」

つまり、「時間外手当」という名称の手当が存在することだけでは足りず、時間外手当と調整手当を含む賃金体系全体について、その実質を確認する必要があるということです。

その上で、本件では、時間外手当と調整手当は単に賃金総額を計算上分けたにすぎず、調整手当には通常の賃金部分も含まれているため、どの部分が時間外労働等の対価なのかを明確に区別することができないと判断しました。

したがって、本件時間外手当の支払によって、労基法37条の割増賃金が支払われたとはいえないと判示しました。


ポイント

  • 割増賃金として有効と認められるには、通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に区別(判別)できることが必要。
  • 「時間外手当」だけを形式的に見るのではなく、時間外手当と調整手当を含む賃金体系全体が、時間外労働等の対価として設計されているかを判断する。
  • 手当の名称や計算方法だけでなく、賃金体系全体の実質によって判断される。
  • 単に通常賃金の一部を「割増賃金」や「調整手当」に付け替えただけでは、労基法37条の割増賃金とは認められない。

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