国民年金法
障害基礎年金 支給停止及び失権

障害基礎年金には、一定の事由が生じた場合に年金の支給を一時的に止める**「支給停止」と、受給権そのものが消滅する「失権」**があります。

この2つは意味が大きく異なります。

支給停止
→ 受給権は残っている
→ 支給停止事由がなくなれば、再び支給されることがある

失権
→ 受給権そのものが消滅する
→ 原則として、その受給権に基づく年金は再開しない

障害の程度が軽くなったからといって、直ちに障害基礎年金の受給権が消滅するわけではありません。

まず支給停止となり、その後、一定の要件を満たした場合に失権するという流れを理解することが重要です。

支給停止と失権の比較

項目 支給停止 失権
受給権 残る 消滅する
年金支給 一時的に停止 終了
障害が再び重くなった場合 再開する可能性あり 原則として従前の受給権は復活しない
2級より軽くなった直後 支給停止 原則まだ失権しない
3級にも該当しない状態が一定期間継続 一定の要件で失権

ポイント

この範囲では、次の違いを特に押さえましょう。

労働基準法の障害補償
→ 障害基礎年金を6年間支給停止

労災保険の障害(補償)等年金
→ 原則として障害基礎年金は支給し、労災側を調整

障害が1級・2級でなくなる
→ まず支給停止

20歳前傷病
→ 所得・海外居住・刑事施設等について特別な支給制限あり


障害の程度が軽くなった場合は、

1級・2級に該当しなくなる

支給停止

さらに3級にも該当しない状態が継続

65歳到達と3年経過の遅い方


失権

という流れを押さえておきましょう。

また、20歳前傷病による障害基礎年金については、

本人の前年所得
→ 10月から翌年9月までの支給に反映

という所得制限があり、2026年度の単身者の基準は、

3,761,000円以下 → 全額支給
3,761,000円超~4,794,000円以下 → 2分の1相当部分を停止
4,794,000円超 → 全額停止

目次

  1. 障害補償による支給停止
  2. 障害の程度による支給停止
  3. 20歳前の傷病による障害基礎年金の支給停止
  4. 失権

障害補償による支給停止

 

障害基礎年金は、受給権者が、その障害の原因となった傷病について労働基準法の規定による障害補償を受けることができる場合には、6年間、その支給が停止されます(法36条1項)。

したがって、

労働基準法の障害補償
→ 障害基礎年金を6年間支給停止

という関係になります。

ここで対象となるのは、労働基準法による障害補償です。


労災保険との調整

労働基準法による障害補償と、労災保険法による障害(補償)等年金は区別する必要があります。

通常の障害基礎年金と労災保険の障害(補償)等年金が併給される場合には、原則として、

障害基礎年金 → 支給される
労災保険給付 → 一定の率で減額調整される

という仕組みです。

 

障害関係の主な調整率

労災保険給付 障害厚生年金 障害基礎年金 障害厚生年金+障害基礎年金
休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金 0.88 0.88 0.73
障害(補償)等年金 0.83 0.88 0.73

したがって、

「労災保険の障害補償年金を受給すると、障害基礎年金が6年間支給停止になる」

という理解は誤りです。

労働基準法上の障害補償労災保険法上の年金給付を区別しましょう。

 

 

遺族関係(調整率)

  遺族厚生年金 遺族基礎年金 遺族厚生年金+遺族基礎年金
遺族(補償)年金/複数事業労働者遺族年金 0.84 0.88 0.80

刑事施設労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されているときであっても支給は停止されません刑事施設などに拘禁などされているときに支給停止される20歳前の傷病による障害基礎年金とのひっかけに注意をしてください

障害の程度による支給停止

 

障害基礎年金は、受給権者が障害等級1級または2級に該当する程度の障害状態でなくなった場合には、その障害状態に該当しない間、支給が停止されます(法36条2項)。

つまり、

1級・2級に該当しなくなった
→ 直ちに失権ではない
→ まず支給停止

障害状態が再び重くなり、1級または2級に該当するようになれば、受給権が残っている限り、支給が再開される可能性があります。


「支給停止」と「失権」の違い

例えば、障害基礎年金2級を受給していた人の障害が軽くなった場合を考えます。

2級
↓ 障害が軽くなる
2級にも該当しない

支給停止

さらに一定期間、3級相当の障害にも該当しない状態が続く

一定の要件を満たすと失権

したがって、

「2級より軽くなった瞬間に受給権がなくなる」

わけではありません。

20歳前の傷病による障害基礎年金の支給停止①

 

20歳前の傷病による障害基礎年金には、通常の障害基礎年金にはない特別な支給制限があります。

これは、20歳前傷病による障害基礎年金については、国民年金保険料の納付要件を満たすことを必要としないためです。

そのため、

  • 他制度の一定の年金を受給している場合
  • 刑事施設等に拘禁されている場合
  • 少年院等に収容されている場合
  • 日本国内に住所を有しない場合
  • 本人の所得が一定額を超える場合

などについて、独自の支給制限が設けられています。


他制度の年金を受給している場合

20歳前傷病による障害基礎年金の受給権者が、

  • 恩給法による一定の年金
  • 労災保険法による年金
  • その他政令で定める年金

を受けることができる場合には、一定の支給調整が行われます(法36条の2)。

ただし、対象となる他制度の年金が全額支給停止されている場合には、原則として、それを理由として20歳前傷病による障害基礎年金まで支給停止されることはありません。

また、恩給法による給付のうち増加恩給については、この支給停止の対象とはされません。


刑事施設等に拘禁されている場合

20歳前傷病による障害基礎年金は、受給権者が、

刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されている場合

には、その期間について支給停止となります。

ただし、刑が確定する前の未決拘禁者については、この支給停止の対象とはされません。

また、

障害者支援施設などの福祉施設に入所した

というだけで支給停止になるわけではありません。

 

通常の障害基礎年金との違い

刑事施設等への拘禁による支給停止は、20歳前傷病による障害基礎年金特有の支給制限です。

通常の障害基礎年金については、刑事施設に拘禁されたことだけを理由として支給停止されるわけではありません。


少年院等に収容されている場合

20歳前傷病による障害基礎年金は、

少年院その他これに準ずる施設に収容されている場合

にも、その期間について支給停止となります。


日本国内に住所を有しない場合

20歳前傷病による障害基礎年金は、受給権者が日本国内に住所を有しない間、支給停止となります。

したがって、

海外へ生活の本拠を移した
→ 20歳前傷病の障害基礎年金は支給停止

となります。

一方、通常の障害基礎年金については、海外に住所を移したことだけを理由として支給停止されるわけではありません。

また、

日本国籍を失ったこと

それ自体は、この支給停止事由ではありません。

重要なのは国籍ではなく国内居住の有無です。

20歳前の傷病による障害基礎年金の支給停止②

 

■ まず結論(超シンプル)

20歳前傷病だけは「所得が多いと止まる」(法36条の3)


■ なぜこの制度だけ止まるのか?

これが一番大事です。

 

▼ 通常の障害年金

保険制度(保険料払ってる)

だから

所得に関係なくもらえる


▼ 20歳前傷病

福祉制度(税金ベース)

だから

「お金ある人は支給しなくてもいいよね」


■ 支給停止のルール

 

▼ 判定基準

前年の本人所得

したがって、

  • 配偶者の所得
  • 世帯全体の所得

によって直接判定するものではありません。


▼ 支給区分(単身者)2026年度の基準では、扶養親族等がいない場合、前年の本人所得に応じて次のように取り扱われます。

所得 結果
376.1万円以下 全額支給
376.1万超~479.4万円以下 半額停止
479.4万円超 全額停止

■ 停止期間

その年の10月~翌年9月

ちょっとズレてるのがポイント

つまり、

前年所得で判定
→ 10月から翌年9月まで反映


■ 扶養親族がいる場合

ここはシンプルに

1人につき+38万円

所得制限が緩くなる

ただし、扶養親族等の種類によっては加算額が異なります。

例えば、

  • 老人控除対象配偶者・老人扶養親族
  • 特定扶養親族等

については、通常の38万円とは異なる加算額が適用される場合があります。

したがって、

「扶養親族がいれば一律38万円」

と断定されている場合には注意が必要です。


■ 2026年からの子の加算額の取扱い

2026年改正では、子の加算額がある20歳前傷病による障害基礎年金について、2分の1の支給停止を行う場合の計算方法に注意が必要です。

2分の1の支給停止を行う場合には、

障害基礎年金額から子の加算額を控除した額の2分の1

が支給停止されます。

つまり、子の加算額そのものを含めた年金総額を単純に半分にするわけではありません。

 

イメージ

障害基礎年金を、

本体部分 + 子の加算額

とすると、

2分の1支給停止の場合は、

本体部分の1/2を停止
+ 子の加算額

という構造になります。

したがって、子の加算額は2分の1支給停止の対象となる本体部分から切り離して計算します。


■ 超重要な対比

 

 

所得制限について整理すると、次のようになります。

年金 本人所得による支給制限
通常の障害基礎年金 なし
20歳前傷病による障害基礎年金 あり
障害厚生年金 原則なし

20歳前傷病による障害基礎年金に所得制限があるのは、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合には、保険料納付要件を必要としない給付だからと理解するとよいでしょう。


■ まとめ

① 20歳前傷病だけ所得制限あり

② 判定は「本人の前年所得」

③ 10月~翌9月で停止

④ 半額 or 全額停止あり

⑤ 子の加算は改正で守られる


■ イメージで覚える

  • 通常の障害年金 → 保険(払った分の権利)
  • 20歳前傷病 → 福祉(困ってる人の救済)

失権

 

障害基礎年金の受給権は、一定の事由が生じた場合には**消滅(失権)**します(法35条)。

主な失権事由は次の3つです。

 

① 受給権者が死亡したとき

受給権者本人が死亡すると、障害基礎年金の受給権は消滅します。


② 障害の程度が軽くなった状態が一定期間続いたとき 国民年金法35条2号・3号

障害の程度が軽減し、厚生年金保険法上の障害等級3級にも該当しなくなった場合には、直ちに失権するわけではありません。

次の2つの時点を比較します。

  1. 3級にも該当しないまま65歳に達したとき
  2. 3級にも該当しなくなった日から3年を経過したとき

そして、

いずれか遅い方

に到達したときに失権します。

要するに、

 

障害基礎年金の支給基準は1・2級、失権の「物差し」は厚生年金の3級まで使う


「65歳」と「3年」の具体例

例えば、63歳で障害の程度が軽くなり、3級にも該当しなくなったとします。

63歳 → 3級にも該当しなくなる
65歳 → 2年経過
66歳 → 3年経過

この場合、

  • 65歳到達
  • 3年経過=66歳

のうち、遅い66歳で失権します。

一方、60歳で3級にも該当しなくなった場合には、

60歳 → 3級にも該当しなくなる
63歳 → 3年経過
65歳 → 65歳到達

となるため、遅い方である65歳で失権します。

 

覚え方

「3級未満になっても即失権しない。65歳と3年経過の遅い方」


なぜ「3級」を基準にするのか

障害基礎年金そのものには、障害等級は1級と2級しかありません。

それにもかかわらず、失権判定では、

厚生年金保険法上の障害等級3級

が基準として登場します。

ここは重要なひっかけポイントです。

障害基礎年金の支給対象
→ 1級・2級

失権判定
→ 3級にも該当しない状態かどうか

と区別しましょう。


併合認定による失権

障害基礎年金の受給権者にさらに別の障害が生じ、前後の障害を併合した結果、新たな障害基礎年金の受給権を取得した場合には、従前の障害基礎年金の受給権は消滅します。

つまり、

前の障害基礎年金 + 後の障害基礎年金

として2つを別々に持ち続けるのではなく、

併合した新しい障害基礎年金

へ一本化されるという考え方です。

 

 

参照 → 障害の程度による支給停止

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