国民健康保険法

ポイント

  • 国保には原則として被扶養者がない
  • 家族もそれぞれ被保険者
  • 未成年者も被保険者
  • 保険者は都道府県及び市町村または国民健康保険組合
  • 平成30年4月から都道府県も保険者
  • 国保組合の設立認可は都道府県知事
    • 発起人は15人以上
    • 同意は300人以上
  • 傷病手当金・出産手当金は任意給付
  • 出産育児一時金・葬祭費・葬祭の給付は法定任意給付
  • 療養の給付等は法定必須給付
  • 業務上外を問わず給付対象になるが、労災等が優先する
  • 不服申立ては国民健康保険審査会
  • 国保の不服申立ては一審制

 

この章は、健康保険法との比較で押さえるとかなり覚えやすいです。

  •  健康保険に加入していない自営業者や無職の者などの地域住民を対象とした健康保険を国民健康保険といいます。
  •  給付費などには国庫負担があり、その内容は独特。
  •  保険料を滞納する者に対する一連の流れについては健康保険法にはないもの。
 
目 次
  1. 目的
  2. 保険者
  3. 国民健康保険組合
    1. 国民健康保険組合の設立
  4. 被保険者
  5. 適用除外
  6. 保険給付
  7. 不服申立て
    1. 審査機関と設置主体

目的

 

国民健康保険法の目的は、

国民健康保険事業の健全な運営を確保し、社会保障及び国民保健の向上に寄与すること です。

「全国民に給付する制度」ではなく、国民健康保険の被保険者に給付する制度です。

 

 

 

1  条文

国民健康保険法56条

被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡について、他の法令により医療に関する給付が行われるときは、その限度において国民健康保険の給付は行わない。


 

2 条文の意味

 

この条文は他の制度で医療給付が行われる場合は、国民健康保険の給付は行わないというルールを定めています。

つまり 医療給付の二重給付を防ぐための規定 です。

 


 

3 労災事故の場合

業務中や通勤中の事故は労災保険が優先されます。

労災保険では

  • 療養補償給付(業務災害)

  • 療養給付(通勤災害)

などの医療給付があります。

そのため労災保険の給付を受けられる場合国民健康保険は

療養の給付を行いません。


 

4 なぜか(制度の考え方)

日本の社会保険は優先関係があります。

業務上の事故
労災保険

業務外の病気・けが
医療保険(国保・健保)

という役割分担です。

したがって業務災害で労災保険が使える場合は国民健康保険は使えません。

 

原因 適用制度
業務災害 労災保険
業務外の病気・けが 健康保険・国保

 

  • 被保険者に対して保険給付を行います。「全国民に対して保険給付を行うわけではありません
    • 国民健康保険は名前に「国民」とありますが全国民に給付する制度ではありません。

      給付の対象は国民健康保険の被保険者だけです。

  健康保険法 国民健康保険法
単位 事業所単位 地域単位
保険者 全国健康保険協会健康保険組合 都道府県及び市町村国民健康保険組合
保険事故

疾病負傷死亡出産​業務災害を除く

疾病負傷死亡出産業務上外を問わない

被保険者
  •  被保険者
  •  任意継続被保険者
  •  特例退職被保険者
  •  日雇特例被保険者
被保険者
被扶養者 あり なし
傷病手当金
出産手当金
法定給付 任意給付
業務上災害 原則対象外 業務上外を問わない

 

国民健康保険の構造的課題としては、

  1.  年齢構成が高く医療費水準が高い
  2.  所得水準が低い
  3.  保険料負担が重い
  4.  保険料の収納率
  5.  一般会計繰入・繰上充用
  6.  財政運営が不安定になるリスクの高い小規模保険者の存在
  7.  市町村間の格差

が挙げられ、制度改革が進められています。

保険者

 

国民健康保険の保険者は2種類です。

  1. 都道府県及び市町村
  2. 国民健康保険組合

平成30年4月以降は、都道府県が財政運営責任を担い、市町村が資格管理・保険給付・保険料徴収などを担います。

国民健康保険組合

 

このうち国民健康保険組合(国保組合)は、同じ職業・業種に属する者が、自主的に医療保険制度を運営するために設立する保険者です。

たとえば、医師、歯科医師、建設業、理美容業など、同業者による相互扶助を基礎として運営される公的医療保険がこれに当たります。


制度の趣旨

国保組合は、職業ごとの実情に応じた柔軟な医療保険運営を可能にするために設けられています。

市町村国保が地域単位で運営されるのに対し、国保組合は職業単位で運営される点に特徴があります。

これは、同じ職業集団であれば、

  • 所得構造が似ている

  • 働き方が似ている

  • 疾病リスクや生活実態に一定の共通性がある

  • 組織的に管理しやすい

といった事情があるためです。

そのため、国保組合では、業種の実情に応じた保険料設計や付加給付など、比較的柔軟な制度設計が可能です。


実務上のメリット

国保組合には、次のような実務上の特徴があります。

 

① 保険料設計の柔軟性

市町村国保に比べて、

  • 所得比例ではなく定額制に近い設計

  • 業種の実情を反映した保険料体系

などを採用しやすいという特徴があります。

 

② 給付内容の調整

国保組合は、法定給付に加えて、

  • 独自の付加給付

  • 医療費補助の上乗せ

  • 健康診断や予防事業

などを設けることができます。

 

③ 業界団体としての機能

単なる保険者にとどまらず、

  • 健康管理

  • 福利厚生

  • 業界全体の相互扶助

という機能も担います。


被保険者の取扱い

国民健康保険には、健康保険法のような「被扶養者」の制度はありません。

そのため、原則として、家族もそれぞれ被保険者になります。

もっとも、国民健康保険組合については例外的な特徴があります。

国民健康保険組合は、規約の定めるところにより、組合員の世帯に属する者を包括して被保険者としないことができます(国民健康保険法19条2項)。

これは、国保組合では、組合員の家族を一律・包括的に当然加入させるとは限らないという意味です。

つまり、

  • 市町村国保では、世帯単位で家族も広く被保険者となるのが基本

  • これに対し国保組合では、規約によって家族の取扱いを調整できる

という違いがあります。

したがって、国保には被扶養者がないという原則は維持されるものの、国保組合では、組合員の世帯員を当然にすべて被保険者にする必要はない点が重要です。

 

ポイント

  • 国保には原則として被扶養者はない

  • 家族もそれぞれ被保険者になるのが基本

  • ただし、国保組合では規約により、組合員の世帯に属する者を包括して被保険者としないことができる

  • そのため、国保組合は家族の加入範囲に一定の柔軟性がある


国民健康保険組合の設立

国民健康保険組合を設立するには、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可が必要です。

設立申請の要件は、

  • 15人以上の発起人

  • 組合員となるべき者300人以上の同意

です。

 

整理

区分 内容
保険者 国民健康保険組合
認可権者 都道府県知事
発起人 15人以上
同意要件 組合員となるべき者300人以上

まとめ

国民健康保険組合は、

同業者による相互扶助を基礎とする、自主運営型の公的医療保険

です。

市町村国保と比べると、

  • 地域単位ではなく職業単位

  • 保険料や給付設計に柔軟性がある

  • 規約により家族を包括して被保険者としないことができる

という点に特徴があります。

特に実務では、

「国保には被扶養者がない」
という原則とあわせて、

「ただし、国民健康保険組合では、規約により組合員の世帯員を包括して被保険者としないことができる」

という例外的な取扱いを押さえておくことが重要です。

 

 

国民健康保険組合の設立

 

設立認可は、

主たる事務所の所在地の都道府県知事 です。

設立申請は、

15人以上の発起人 + 300人以上の同意 です。

 

医療分野

区分 法律 認可 人数要件 同意要件 発起人要件
健康保険組合 健康保険法 厚生労働大臣 単独700人
共同3,000人
被保険者の2分の1以上の同意
国民健康保険組合 国民健康保険法 都道府県知事 組合員となるべき者300人以上の同意 15人以上
国民健康保険団体連合会 国民健康保険法 都道府県知事

 

年金分野

区分 法律 認可 人数要件 同意・申出要件 発起人要件
地域型国民年金基金 国民年金法 厚生労働大臣 1,000人以上 300人以上の加入資格者の希望申出
職能型国民年金基金 国民年金法 厚生労働大臣 3,000人以上 15人以上
国民年金基金連合会 国民年金法 厚生労働大臣 2以上の基金
企業年金連合会 確定給付企業年金法 厚生労働大臣 20以上の事業主等

 

横断整理

 

  • 都道府県知事認可は「国保」系のみ

  • 700人 → 健康保険組合(単独)

  • 1,000人 → 地域型国民年金基金

  • 3,000人 → 健保(共同)/職能型国民年金基金

  • 発起人15人 → 国保組合・職能型基金

  • 連合会系は「構成団体数」が基準(2基金/20事業主)

被保険者

 

都道府県の区域内に住所を有する者は、原則として国民健康保険の被保険者になります。

ポイントは、

未成年者も被保険者になる

被扶養者という概念はない

という点です。

 

同一都道府県内で転居した場合の取扱い

国民健康保険は、都道府県単位で運営されています。

そのため、被保険者は都道府県の区域内に住所を有した日に資格を取得し、都道府県の区域内に住所を有しなくなった日の翌日(他の都道府県へ転出した場合はその日)に資格を喪失します。

したがって、同じ都道府県内で市区町村をまたいで転居した場合(例:東京都○○区から△△区へ転居、大阪府A市からB市へ転居)は、引き続き同じ都道府県内に住所を有しているため、

  • 国民健康保険の資格を喪失することはありません。
  • 新たに資格を取得することもありません。

つまり、被保険者資格は継続したままとなります。もっとも、保険者である市区町村が変わるため、転入・転出に伴う届出や資格確認書(または資格情報)の変更などの手続きは必要になります。

 

適用除外

 

代表的な適用除外は、

  • 健康保険の被保険者
  • 船員保険の被保険者
  • 共済組合の組合員
  • 私学共済の加入者
  • 健康保険等の被扶養者
  • 後期高齢者医療の被保険者
  • 生活保護を受けている世帯の者
  • 国民健康保険組合の被保険者 です。

「他の医療保険に入っている人」は原則として国保には入りません。

生活保護を受けた場合の取扱い

生活保護を受給することになった場合、国民健康保険料が免除されるわけではありません。

国民健康保険法では、生活保護法による保護を受けている世帯(保護停止中の世帯を除く)に属する者は、国民健康保険の適用除外とされています。(国民健康保険法6条9号)

そのため、生活保護の開始により適用除外に該当した者は、保護開始日から国民健康保険の被保険者資格を喪失します。(国民健康保険法8条2項)

 

ポイント

  • 誤り:「生活保護を受けると国民健康保険料が免除される」
  • 正しい:生活保護を受けると国民健康保険の資格そのものを喪失するため、保険料を納める立場ではなくなる。

これは、生活保護受給者は医療扶助により医療を受けるため、国民健康保険による給付を受ける必要がないためです。

保険給付

 

ここはかなり重要です。

 

法定必須給付

必ず行う給付です。

代表例:

  • 療養の給付
  • 入院時食事療養費
  • 入院時生活療養費
  • 保険外併用療養費
  • 療養費
  • 訪問看護療養費
  • 移送費
  • 高額療養費
  • 高額介護合算療養費
  • 特別療養費

法定任意給付

原則として行うが、特別な理由があれば行わないこともできる給付です。

  • 出産育児一時金
  • 葬祭費
  • 葬祭の給付

ここで注意するのは、国保では健康保険のような「埋葬料」ではなく、葬祭費・葬祭の給付という表現が出る点です。


任意給付

実施するかどうかが任意の給付です。

  • 傷病手当金
  • 出産手当金
  • その他の保険給付

健康保険では傷病手当金・出産手当金は法定給付ですが、国保では任意給付です。

 

他法優先

国民健康保険は「最後の拠り所」なので、他の制度で給付を受けられる場合、その範囲では国保の給付は行われません。

たとえば、

  • 健康保険
  • 船員保険
  • 共済組合
  • 後期高齢者医療
  • 介護保険
  • 労災保険
  • 公務災害補償
  • 公費負担医療

などが優先されます。

不服申立て

 

不服申立ては、

国民健康保険審査会

に審査請求します。

都道府県に置かれます。 そして、

一審制 です。

 

なお、市町村及び国民健康保険組合の委託を受けて診療報酬請求書の審査を行うため、都道府県の区域を区域とする国民健康保険団体連合会(その区域内の都道府県若しくは市町村又は国民健康保険組合の3分の2以上が加入しないものを除く)に、国民健康保険診療報酬審査委員会が置かれています(国民健康保険法87条1項)

 

審査機関と設置主体

法律 審査機関 設置
国民健康保険法 国民健康保険審査会 都道府県
高齢者医療確保法 後期高齢者医療審査会 都道府県
介護保険法 介護保険審査会 都道府県
健康保険法
国民年金法
厚生年金保険法
船員保険法
社会保険審査官 地方厚生(支)局
石炭鉱業年金基金法
年金給付遅延加算金支給法
社会保険審査会 厚生労働省

 

ポイント整理

都道府県設置

  • 国保

  • 後期高齢者

  • 介護

 

 

地方厚生(支)局

  • 健康保険・年金系 → 社会保険審査官

 

 

厚生労働省

  • 社会保険審査会(上級審)

審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、文書または口頭でしなければならない。ただし、正当な理由により、この期間内に審査請求をすることができなかったことを疎明したときは、この限りでない。(法99条)

審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなされる。(法91条2項)

処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない。(法103条)

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