国民年金法
遺族基礎年金 支給停止及び失権

遺族基礎年金では、

「支給停止」 

「失権」

を区別することが重要です。

 

支給停止

受給権は残っているが、一定の事情があるため年金の支払いを止める

支給停止事由がなくなれば、再び支給されることがあります。

 

失権

遺族基礎年金を受ける権利そのものが消滅する

一度失権すると、その受給権が復活するものではありません。


■ 全体像

遺族基礎年金の支給停止・失権は、大きく次のように整理できます。

 

支給停止

  1. 労働基準法の遺族補償による支給停止
  2. 子に対する遺族基礎年金の支給停止
  3. 所在不明による支給停止

 

失権

  1. 配偶者と子に共通する失権
  2. 配偶者だけの失権
  3. 子だけの失権

 

 

目次

  1. 遺族補償による支給停止(すべての遺族基礎年金に共通)
  2. 子に対する遺族基礎年金の支給停止
  3. 所在不明による支給停止
  4. 配偶者と子に共通する失権事由
    1. 養子になった場合の取扱い(制度別)
  5. 配偶者のみの失権事由
  6. 子のみの失権事由

 

参照 → 遺族基礎年金の受給権者(遺族)の要件

遺族補償による支給停止(すべての遺族基礎年金に共通)

 

被保険者または被保険者であった者の死亡について、労働基準法の規定による遺族補償が行われるべき場合には、遺族基礎年金は死亡日から6年間、その支給が停止されます。(国民年金法41条1項)

 

ポイント

これは受給権が消滅する「失権」ではありません。

受給権はあるが、6年間支給を停止する

という取扱いです。

障害基礎年金について労働基準法上の障害補償との調整が行われるのと同じような考え方です。


■ 労災保険との関係に注意

ここでは、

労働基準法による遺族補償 と、

労災保険法による遺族補償年金

を区別して理解する必要があります。

①遺族基礎年金の受給権者に同一の支給事由により②労災保険法による遺族補償年金の支給が受けることができる場合は遺族補償年金には調整率を乗じた減額調整が行われます、①遺族基礎年金は全額支給されます

したがって、

「労災が出たら遺族基礎年金は必ず6年間停止」

と覚えるのは正確ではありません。

国民年金法41条1項が直接規定しているのは、労働基準法の遺族補償です。

子に対する遺族基礎年金の支給停止

 

子自身が遺族基礎年金の受給権を持っていても、一定の場合には支給されません(国民年金法41条2項)。

子に対する遺族基礎年金は、次の場合に支給停止となります。

  1. 配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき
  2. その子と生計を同じくする父または母があるとき

 

■ 原則は「配偶者優先」

死亡者について、

  • 配偶者

の両方が遺族基礎年金の受給権を取得する場合があります。

しかし、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有している間は、原則として、

子自身の遺族基礎年金は支給停止

となります。 つまり、

受給権そのものは子にもある ものの、

実際の支給は配偶者に行う

という仕組みです。


■ 配偶者が支給停止になれば必ず子に出る?

ここは注意が必要です。

配偶者の遺族基礎年金が、

  • 本人の申出によって支給停止されている
  • 所在不明によって支給停止されている

場合には、

「配偶者が受給権を有する」という理由による子の支給停止

は適用されません。

しかし、それだけで必ず子に支給されるわけではありません。

なぜなら、もう一つ、

「子と生計を同じくする父または母がいる」

という支給停止事由があるからです。

■ 具体例

 

母が死亡し、

  • 16歳の子

が残されたケースを考えます。

父が死亡した母によって生計を維持されており、「子のある配偶者」として遺族基礎年金の受給権を取得した場合、

  • 父 → 遺族基礎年金を受給
  • 子 → 遺族基礎年金の受給権はあるが支給停止

となります。

 

なぜ?

配偶者が遺族基礎年金の受給権を持っているため です。

つまり、遺族基礎年金は親子に二重に支給するのではなく、子を養育する配偶者にまとめて支給する構造になっています。


■ 配偶者が自ら支給停止を申し出た場合

 

たとえば父が、自分の遺族基礎年金について支給停止を申し出たとします。

この場合、

「配偶者に受給権がある」という理由だけでは、子を支給停止しない

ことになります。

しかし、父と子が引き続き生計を同じくしていれば、

「生計を同じくする父がある」

という別の理由によって、子の遺族基礎年金は支給停止となります。

 

したがって

典型的な親子世帯では、

親が自分の年金を停止すれば、そのまま子に支給先を変更できる

という仕組みではありません。

所在不明による支給停止

 

■ 配偶者が所在不明の場合

配偶者に対する遺族基礎年金について、その配偶者の所在が1年以上明らかでない場合には、

遺族基礎年金の受給権を有する子の申請

によって、配偶者の遺族基礎年金を支給停止することができます。

しかも、

所在が明らかでなくなった時まで遡って

支給停止されます。(国民年金法41条の2第1項)


■ 流れ

  1. 配偶者が所在不明になる
  2. 1年以上所在が明らかにならない
  3. 遺族基礎年金の受給権を持つ子が申請する
  4. 配偶者の年金が所在不明となった時まで遡って支給停止
  5. 子について、配偶者の受給権を理由とする支給停止が解消する

という流れです。


■ 所在が判明した場合

所在不明によって支給停止されていた配偶者は、

いつでも支給停止の解除を申請

することができます。(法41条の2第2項)

ただし、

所在が判明しただけで自動的に停止が解除される

という整理ではありません。

解除のための申請が必要です。


■ 子が所在不明の場合

遺族基礎年金の受給権を有する子が2人以上いる場合に、そのうち1人以上の所在が1年以上明らかでないときは、

他の子の申請

によって、所在不明の子の遺族基礎年金を支給停止できます。

この場合も、

所在不明となった時まで遡って

支給停止されます。(国民年金法42条1項)


■ 例

姉と弟が遺族基礎年金の受給権を持っているとします。

  1. 姉が所在不明になる
  2. 1年以上所在が分からない
  3. 弟が申請
  4. 姉の年金が所在不明となった時まで遡って支給停止
  5. それに伴って年金額が改定される

という流れです。

その後、姉の所在が判明した場合、姉は支給停止解除を申請できます。


所在不明の「届出」と「支給停止申請」の違い

ここは混同しやすいポイントです。

項目 一般の所在不明届 遺族基礎年金の所在不明による支給停止
所在不明期間 1か月以上 1年以上
主な目的 生存・所在確認 遺族年金の支給関係を調整
手続 届出 申請
効果 行政による確認等 所在不明時まで遡って支給停止

一般の年金受給者については、1か月以上所在不明となった場合に世帯員による届出が必要とされています。これに対して、遺族年金独自の所在不明による支給停止は1年以上が基準です。

 

最短整理

1か月=所在不明の届出

1年=遺族年金の支給停止

配偶者と子に共通する失権事由

 

遺族基礎年金の受給権者である配偶者または子が、次のいずれかに該当すると、受給権そのものが消滅します(国民年金法40条1項)。

  1. 死亡したとき
  2. 婚姻したとき
  3. 養子となったとき
    • ただし、直系血族または直系姻族の養子となった場合を除く

■ 婚姻

婚姻をすると、遺族基礎年金の受給権は失権します。

これは単なる支給停止ではなく、

受給権そのものが消滅


■ 養子

原則として、養子となった場合も失権します。

ただし、

直系血族または直系姻族の養子

となった場合には失権しません。

 

祖父母など一定の直系血族や、一定の直系姻族との養子関係については、直ちに遺族基礎年金の受給権を失わせない仕組みになっています。

配偶者のみの失権事由

 

「子のある配偶者」の遺族基礎年金は、

対象となる子がいなくなれば終了

つまり、すべての子が一定の事由に該当すると、配偶者は「子のある配偶者」ではなくなるため、遺族基礎年金の受給権を失います。(国民年金法40条2項)


■ 配偶者の受給権を失わせる「子側の事由」

すべての子が、次のいずれかに該当すると、配偶者の受給権は失権します。

  1. 死亡した
  2. 婚姻した
  3. 配偶者以外の者の養子となった
  4. 離縁によって死亡者の子でなくなった
  5. 配偶者と生計を同じくしなくなった
  6. 18歳年度末を終了した
  7. 障害状態でなくなった
  8. 20歳に達した

要するに、

配偶者が「対象となる子と生活する配偶者」ではなくなった

ときに失権するという考え方です。


■ 養子の論点が特に重要

養子については、

子自身の失権 と、

配偶者の失権

を別々に考える必要があります。


ケース①

子が直系血族・直系姻族の養子になった

 

子 直系血族または直系姻族の養子なので、

子自身は失権しない

配偶者 しかし、その養親が「配偶者以外の者」であれば、配偶者については、その子が配偶者の年金額を構成する子から外れることがあります。その結果、すべての子が該当すれば、

配偶者は失権

結論

配偶者 → ×失権

子 → ○受給権は残る


ケース②

子が直系血族・直系姻族以外の者の養子になった

この場合は、

 

養子になったことによって失権

配偶者

すべての子が該当すれば、

「子のある配偶者」でなくなるため失権

結論

配偶者 → ×

子 → ×


ケース③

死亡者の連れ子を残された配偶者が養子にした

たとえば、

  • 夫に子がいる
  • 夫が死亡
  • 妻と夫の子が遺族として残る
  • その後、妻がその子と養子縁組する

という場合です。

子から見れば、遺族基礎年金を受けている配偶者自身の養子となったことになります。

この場合には、

  • 子の受給権
  • 配偶者の受給権

ともに直ちに失われるものではありません。

結論

配偶者 → ○

子 → ○


ケース④

配偶者が再婚した

配偶者が再婚すると、

配偶者自身は「婚姻」により失権

します。

一方、子は、親が再婚しただけでは直ちに失権しません。

 

ただし

子が母と生計を同じくしている場合には、

生計を同じくする母がいる

ため、子の遺族基礎年金は支給停止されます。

つまり、

母 → 失権

子 → 受給権は残るが支給停止


■ 再婚相手と子が養子縁組した場合

さらに再婚相手が子と養子縁組した場合、

その養親が子にとって直系姻族に該当するなど、法40条1項3号の例外に当たる場合には、

養子になったことだけを理由として子が失権しない

ただし、生計を同じくする父または母がいる間は、子に対する遺族基礎年金の支給停止の問題が残ります。

 

 

養子になった場合の取扱い(制度別)

制度 失権(受給権がなくなる) 減額改定(年金額が下がる)
遺族(補償)等年金 直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったときの受給権
遺族基礎年金

直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったときの受給権

すべての子が、配偶者以外の者の養子となったときの配偶者の受給権 → 「子のない配偶者」

子のうち1人を除いた子が、配偶者以外の者の養子となったときの年金額(子の加算額相当額)
遺族厚生年金 直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったときの受給権
寡婦年金 直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったときの受給権
障害基礎年金 子が受給権者の配偶者以外の者の養子となったときの年金額(子の加算額相当額)

補足

  • 「失権」は 受給権そのものが消える もの。
  • 「減額改定」は 子の加算(子の加算額相当)だけが減る イメージです。

子のみの失権事由

 

状況 子の受給権 実際の支給
配偶者が遺族基礎年金を受給 × 支給停止
生計を同じくする父母がいる × 支給停止
所在不明 × 申請により支給停止
婚姻した × ×
一定の第三者の養子になった × ×
通常の子が18歳年度末終了 × ×
障害のある子が20歳到達 × ×

 

■ ① まず結論(子の失権の全体像)

子の遺族基礎年金は

「子でなくなった」or「年齢・障害要件を外れた」ら終わる


■ ② 子“だけ”の失権事由(コア)

 

▼① 離縁

被保険者の子でなくなった

身分喪失でアウト


▼② 18歳年度末到達

原則ここで終了

ただし例外

障害があるなら継続


▼③ 障害が治った

(20歳未満の障害継続枠から外れる)

ただし

まだ18歳年度末前ならセーフ


▼④ 20歳到達

最終ライン

障害あってもここで終了


■ ③ 一番大事な流れ(年齢×障害)

これが核心です


▼通常の子

  • ~18歳年度末 → 支給
  • それ以降 → ❌終了

▼障害のある子

  • ~18歳年度末 → 支給
  • 18歳以降も障害あり → 継続
  • 20歳で強制終了

■ つまり一言で

障害があると18→20歳まで延長されるだけ


■ ④ 20歳でどうなるのか(超重要)

ここは重要です。

自動的には切り替わりません。

20歳になると、遺族基礎年金については法40条3項4号によって失権します。

一方、その子自身が障害基礎年金の支給要件を満たす場合には、

別途、本人の障害を支給事由とする障害基礎年金を受けられる可能性がある

という関係です。

したがって、

 

誤り

遺族基礎年金
→ 20歳で自動的に障害基礎年金へ切替

ではなく、

 

正しくは

遺族基礎年金
→ 20歳で失権

そのうえで、

20歳前傷病による障害基礎年金などの要件を別途満たすかを判定


■ ⑤ 途中で障害になった場合


▼パターン

最初:健常
→ 途中で障害になる(18歳前)

OK


■ 結果

20歳まで延長される


■ 労災との違い

 

▼労災(遺族補償)

障害は「死亡時」で判定

その後の年齢では切られない


▼国民年金・厚生年金

年齢+障害で動く

  • 原則:18歳年度末
  • 例外:障害なら20歳まで

■ まとめ

① 原則:18歳年度末で終了

② 障害があれば20歳まで延長

③ 20歳で必ず終了(障害あっても)

④ 離縁・養子で身分変動あり


■ 一言でまとめると

「子として守るのは18歳まで、障害があれば20歳まで」

 

子の受給権(失権時期の違い)

制度 障害の有無の判定時点 障害状態が続いた場合の失権
遺族(補償)等年金 労働者の死亡当時 失権しない(※18歳年度末で失権しない/20歳で失権しない)
遺族基礎年金・遺族厚生年金 18歳に達した日以後最初の3月31日の終了まで 原則:18歳年度末で失権せず20歳で失権
※「20歳前の傷病による障害基礎(厚生)年金」に切り替わる

要するに、

  • 労災の遺族(補償)等年金:子の障害は「死亡当時」で見て、以後の年齢到達で自動失権する整理ではない。

  • 遺族基礎・遺族厚生:基本は18歳年度末が区切りだが、障害が続く場合は20歳で失権(さらに20歳前障害への切替)という整理、です。

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