厚生年金保険法 
遺族厚生年金の額

遺族厚生年金の年金額は、亡くなった方の「老齢厚生年金(報酬比例部分)」の額 × 3/4(4分の3)75%となります。

※ 報酬比例部分とは、給与(標準報酬)や賞与に基づく年金の部分です

 

目 次

  1. 遺族厚生年金の額①(原則)
  2. 遺族厚生年金の額②(老齢厚生年金の受給権者である65歳以上の配偶者の場合)
  3. 中高齢の寡婦加算
  4. 中高齢の寡婦加算の額
  5. 中高齢の寡婦加算の加算期間
  6. 参照 遺族基礎年金の額

遺族厚生年金の額(原則)

 

まず前提として、遺族厚生年金の額は「亡くなった方がもらえたはずの老齢厚生年金の報酬比例部分」を基準に計算し、その一定割合を遺族が受け取る仕組みです。

そして計算は、大きく次の3ステップです。

① 亡くなった方の「平均的な給料額」を出す
② 加入していた「月数」を掛ける
③ 最後に一定割合(原則3/4など)を掛ける

 


① 短期要件の場合(原則3/4になるケース)

 

短期要件とは、現役世代などが亡くなった場合に適用されるものです。

例えば

  • 現役の被保険者が死亡
  • 初診日要件を満たす傷病による死亡

などの場合です。

 

計算方法

報酬比例部分 × 3/4

 

特徴

  • 障害厚生年金と同じ考え方
  • 被保険者期間300か月未満なら300か月みなし
  • 若年死亡者の遺族保護が目的 

 

計算の流れは次のとおりです。

 

【ステップ1】平成15年3月以前と以後で分ける

制度改正があったため、加入期間を2つに分けます。

  • 平成15年3月まで

  • 平成15年4月以後

それぞれで計算します。

 

【ステップ2】それぞれを計算する

■ 平成15年3月まで
平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × その期間の月数

■ 平成15年4月以後
平均標準報酬額 × 5.481/1000 × その期間の月数

この2つを足します。

 

【ステップ3】最後に「3/4」を掛ける

合計額 × 3/4

これが遺族厚生年金の年額になります。

つまり短期要件は、

「本来の厚生年金額の報酬比例部分 × 75%」

と考えると理解しやすいです。

 


② 長期要件の場合

 

長期要件とは、老齢厚生年金を受け取れる資格を満たした人が亡くなった場合などです。

 

特徴

  • 実際の加入期間を使用
  • 300か月みなしなし
  • 生年月日に応じた給付乗率を使用

計算の基本構造は同じですが、掛ける率が生年月日によって変わります。

 

■ 平成15年3月まで
平均標準報酬月額 ×(7.125~9.5)/1000 × 月数

 

■ 平成15年4月以後
平均標準報酬額 ×(5.481~7.308)/1000 × 月数

※率は生年月日が古いほど高くなります。

長期要件の場合は、短期要件のように最後に「3/4」を掛ける形ではなく、最初からその人に対応する率で計算します。


 

とても簡単に言うと

遺族厚生年金は、

「平均的な給料 × 加入月数 × 一定の率」

で計算します。

  1. 平成15年3月以前と以後で計算方法が少し違う

  2. 短期要件は最後に3/4を掛ける

  3. 長期要件は生年月日に応じて率が変わる

この3点を押さえると、式が整理できます。

 

 

両方に該当する場合

 

短期要件と長期要件の両方を満たす場合は、

原則として短期要件

で計算します。

(300か月みなしにより有利になることが多いため)

 

 

 

短期要件と長期要件の比較

 

項目 短期要件 長期要件
計算方式 障害厚生年金型 老齢厚生年金型
加入期間 300か月みなしあり 実期間
給付水準 有利になりやすい 実績ベース
趣旨 現役世代の遺族保護 老齢受給者の遺族保護

繰上げ・繰下げ受給と遺族厚生年金の関係

まず結論からいうと、

死亡した人が老齢厚生年金を繰上げ受給していても、また繰下げ受給していても、遺族厚生年金の計算には影響しない

ということです。


繰上げ受給の場合

例えば本来65歳から受給する老齢厚生年金を60歳から繰上げ受給すると、

  • 老齢基礎年金 → 減額
  • 老齢厚生年金 → 減額

されます。

仮に本来の老齢厚生年金(報酬比例部分)が100万円だった人が、

  • 繰上げにより76万円

になっていたとしても、

その人が死亡した場合の遺族厚生年金は

76万円の4分の3

ではなく

本来額100万円の4分の3

で計算します。

したがって、

遺族厚生年金額

=100万円×3/4

=75万円

となります。


繰下げ受給の場合

逆に、

  • 本来額100万円
  • 繰下げ受給により184万円

になっていた人が死亡しても、

遺族厚生年金は

184万円を基礎にするのではなく

100万円を基礎にして

100万円×3/4

=75万円

となります。


なぜそうなるのか

厚生年金保険法60条1項は

「第43条第1項の規定の例により計算した額の4分の3」

と規定しています。

ここでいう第43条1項は、

老齢厚生年金の「報酬比例部分」の本来額を計算する条文です。

つまり、

  • 繰上げによる減額後の年金額
  • 繰下げによる増額後の年金額

を基礎にするのではなく、

本来の報酬比例部分

を基礎に計算するということになります。


遺族基礎年金も影響を受けない

遺族基礎年金は、

死亡した人の老齢基礎年金額とは無関係です。

法律で定額が決まっています。

したがって、

  • 死亡した人が繰上げ受給していた
  • 老齢基礎年金が減額されていた

としても、

遺族基礎年金は減額されません。

 


遺族が複数いる場合

配偶者以外の受給権者(子、父母、孫、祖父母など)が複数いる場合、

それぞれが別々に年金をもらうのではなく、

計算した遺族厚生年金額を人数で割ります。


例

遺族厚生年金額

90万円

受給権者

  • 子A
  • 子B

の2人

の場合

90万円÷2

=45万円ずつ

受給します。

(法60条2項)


まとめ

重要なポイントは次の3つです。

① 死亡者が老齢厚生年金を繰上げ受給していても、繰下げ受給していても、遺族厚生年金は「本来の報酬比例部分」を基礎に計算する。

② 短期要件による遺族厚生年金は、被保険者期間が300か月未満でも300か月として計算するため有利になることが多い。

③ 短期要件は障害厚生年金型、長期要件は老齢厚生年金型の計算方式であると理解すると制度全体が整理しやすい。

遺族厚生年金の額(老齢厚生年金の受給権者である65歳以上の配偶者の場合)

65歳以上の配偶者が、自分自身の老齢厚生年金を受給している場合の遺族厚生年金の特例(老齢厚生年金との併給調整)

 

 

なぜ特別な計算があるのか

まず原則を確認します。

夫が死亡し、妻が遺族厚生年金を受給する場合、

本来は

夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3

が遺族厚生年金になります。

例えば

夫の老齢厚生年金 120万円 なら

遺族厚生年金

120万円 × 3/4

=90万円


しかし妻自身も会社員として働き、

自分の老齢厚生年金を受給している場合があります。

例えば

妻の老齢厚生年金

40万円

です。


昔の制度では、

妻は

  • 自分の老齢厚生年金40万円

か

  • 遺族厚生年金90万円

のどちらかしか選べませんでした。

当然、

90万円の方が高いので、

自分で保険料を納めて得た40万円分が事実上無意味になることがありました。


そこで導入されたのが

「老齢厚生年金との併給特例」


現在の制度

65歳以上で老齢厚生年金の受給権がある配偶者は、

次のどちらか多い方を受け取れます。


パターン①

通常の遺族厚生年金

 = 原則額

夫120万円 × 3/4

 = 90万円


パターン②

次の合計額

(遺族厚生年金原則額の2/3)+(自分の老齢厚生年金の1/2)


数式にすると

90万円 × 2/3 + 40万円 × 1/2 = 60万円+20万円

 = 80万円


具体例の比較

具体例で比較すると


①原則額

90万円


②特例額

60万円+20万円

=80万円


比較すると

90万円 > 80万円

なので

妻は

90万円

を受給します。


この特例の意味

実はこの式を変形すると面白いことが分かります。


夫の老齢厚生年金

120万円

↓

その半分

60万円


妻の老齢厚生年金

40万円

↓

その半分

20万円


合計

80万円


つまり

特例額は実質的に

「夫婦それぞれの厚生年金の半分ずつ」

を合算したような金額

になっています。

そのため実務では

「ハーフハーフ方式」

と説明されることがあります。

 


老齢基礎年金との関係

65歳以上になると

遺族厚生年金は

老齢基礎年金と併給できます。

つまり

受給額は


老齢基礎年金

+

遺族厚生年金


になります。


最後に重要な例外

遺族基礎年金の支給を受けるときは原則額とする

という部分です。


つまり

  • 子がいて
  • 遺族基礎年金も受給している

場合には

先ほどの

「2/3+1/2方式」

は使いません。

必ず

原則額(夫の年金の3/4)

になります。


ポイント

65歳以上の配偶者が老齢厚生年金を受給している場合

受け取る遺族厚生年金は

次のいずれか高い方。

① 原則額

死亡者の老齢厚生年金×3/4

② 特例額

(①原則額×2/3)+(本人の老齢厚生年金×1/2)

ただし

同じ死亡を理由とする遺族基礎年金を受給しているときは②は使わず①のみ。

この「①と②の比較」「②は実質ハーフハーフ方式」「遺族基礎年金受給中は①のみ」という3点が重要

中高齢の寡婦加算

 

1  制度の目的(まずここを理解)

遺族年金には次の2種類があります。

  • 遺族基礎年金

  • 遺族厚生年金

 

しかし

  1. 遺族基礎年金は、「子のある配偶者」には支給されますが、
  2. 「子のない配偶者」には支給されません

 

そこで40歳〜65歳の妻に加算する制度として中高齢の寡婦加算が作られました。

 

遺族が子のある配偶者の場合 遺族基礎年金+子の加算 遺族厚生年金
遺族が子の場合 遺族基礎年金+子の加算 遺族厚生年金
遺族が子のない一定の妻の場合 中高齢寡婦加算 遺族厚生年金

 

 

2  条文(厚生年金保険法62条1項)

 

中高齢の寡婦加算は、遺族厚生年金の受給権者である妻が、次のいずれかの要件を満たす場合に加算される。(法62条1項)

 

中高齢の寡婦加算(妻の要件)
  1.  受給権取得当時、子がなく遺族基礎年金の受給権を有しない場合には、その当時40歳以上65歳未満であること。
  2.  受給権取得当時、子があり遺族基礎年金の受給権を有している場合には、妻が40歳に達した当時、子と生計を同じくしていること。

 

ただし、妻が、長期要件による遺族厚生年金の支給を受けるときは、その計算の基礎となる被保険者期間(夫)の月数が240か月以上(中高齢の特例によるときは、その月)であるときに限り、加算が行われる。(法62条1項かっこ書)

区分 内容
夫の要件(短期) 別段の要件なし
夫の要件(長期) 被保険者期間が原則 240か月以上
妻の要件① 夫の死亡当時、40歳以上65歳未満
妻の要件②(代替要件) 40歳に達した当時、夫の子で遺族基礎年金の受給権者である子と生計同一

3 基本要件(整理)妻の要件

次のどちらかです。

 

パターン①(基本)

夫死亡時妻が40歳以上65歳未満で子がいない

つまり遺族基礎年金がもらえない妻

 


 

パターン②(子ありルート)

夫死亡時は子がいて遺族基礎年金を受給

↓

その後子が18歳年度末到達で遺族基礎年金が終了

↓

その時点で妻が40歳以上

この場合も加算されます。

条文では

妻が40歳に達した当時、子と生計同一

と表現されています。

 


 

4 夫側の要件(短期・長期)

遺族厚生年金には短期要件と長期要件があります。

区分 加算条件
短期要件 夫の加入期間関係なし
長期要件 240か月以上必要

 

短期要件

  • 被保険者が死亡

  • 被保険者期間中の傷病で死亡

 

この場合夫の加入期間は関係ありません。

したがって中高齢の寡婦加算も期間条件なし

 


 

長期要件

これは老齢厚生年金を受けられる資格を満たした人が死亡した場合です。

このときは被保険者期間240か月以上が必要です。(条文62条1項かっこ書)

 


 

5 ケース別イメージ

 

ケース①(子なし)

夫死亡
妻45歳

↓遺族基礎年金なし

中高齢の寡婦加算あり

 


ケース②(子あり)

夫死亡
妻35歳
子10歳

↓遺族基礎年金あり

子18歳年度末到達

↓

妻43歳

↓

ここから寡婦加算

 

 

 支給される期間

40歳〜65歳までです。

65歳になると妻自身の老齢基礎年金が始まるためです。

 


 

超シンプルまとめ

 

中高齢の寡婦加算とは子がいない(またはいなくなった)40歳以上65歳未満の妻の年金を補う制度です。

 

理由

子のない配偶者は遺族基礎年金がもらえないため。

  • 遺族基礎年金の支給を受けることができるときは、その間、中高齢の寡婦加算は支給停止され、遺族基礎年金が失権したところから中高齢の寡婦加算が加算されます。
  • 夫の死亡当時に妻が40歳未満であっても問題ありません。

中高齢の寡婦加算の額

 

金額はいくらか

厚生年金保険法62条1項では、

中高齢寡婦加算 = 遺族基礎年金額 × 3/4

と規定されています。

つまり、

遺族厚生年金の額や夫の収入とは関係なく、

毎年決まった額になります。


なぜ「定額」と言われるのか

遺族厚生年金は

死亡した人の

  • 平均標準報酬額
  • 加入期間

によって変わります。

したがって人によって金額が異なります。


一方、

中高齢寡婦加算は

「遺族基礎年金額の4分の3」

と法律で固定されています。

そのため、

死亡した夫の給料が高くても低くても同じ額

になります。

だから

定額加算

と呼ばれます。


イメージ

例えば遺族基礎年金額を90万円と仮定すると

中高齢寡婦加算

=90万円×3/4

=67万5,000円

となります。


なぜ4分の3なのか

制度の歴史的な経緯として、

中高齢寡婦加算は

本来受けられた遺族基礎年金の一定割合を補填する

趣旨で設けられました。

そこで

遺族基礎年金の満額ではなく、

その4分の3が支給される仕組みになっています。


65歳になるとどうなるか

中高齢寡婦加算は

65歳になると終了します。

その代わり、

65歳以降は

  • 老齢基礎年金
  • 遺族厚生年金

を受給できるようになります。

つまり、

40歳~65歳までの生活保障を補うための制度です。


ポイント

✅ 中高齢寡婦加算は遺族厚生年金に加算される

✅ 金額は「遺族基礎年金額の4分の3」

✅ 死亡者の報酬や加入期間に関係なく定額

✅ 原則として40歳以上65歳未満の妻が対象

✅ 65歳になると中高齢寡婦加算は消滅する

つまり、

「中高齢寡婦加算=遺族基礎年金の3/4相当額の定額加算」

と覚えると整理しやすいです。

中高齢の寡婦加算の加算期間

 

中高齢の寡婦加算の加算期間は、次の通りである。(法62条1項、法65条)

 

受給権取得当時、40歳以上65歳未満で、「子がない」場合
夫死亡

 

40歳───────────────────65歳

   ↑

   中高齢寡婦加算の権利発生          

 ↑

   支給開始

   ├───────────────────┤

    中高齢寡婦加算

40歳に達した当時、遺族基礎年金を受けることができる「子がある」場合

 

夫死亡

 

39歳 ──40歳──────────────子18歳────────65歳

        ↑

        中高齢寡婦加算の権利発生

 

        ├──────────────────┤

           遺族基礎年金受給中

           (支給停止)

 

                           ↑

                      支給開始

 

                           ├────────────────────────┤

                          中高齢寡婦加算

なぜこんな仕組みなのか

 

中高齢寡婦加算は

子が成長して遺族基礎年金がなくなった後の生活保障

が目的です。

したがって

  • 遺族基礎年金を受けている間は不要
  • 遺族基礎年金が終わったら支給

という構造になっています。


 

ポイント

 

「40歳に達したら直ちに中高齢寡婦加算が支給される」

→ ❌ 誤り

正しくは

40歳到達時に権利は発生するが、遺族基礎年金を受給している間は支給停止される。

そのため実際の支給開始は、

多くの場合

「末子が18歳到達年度末に達して遺族基礎年金が終了した後」

になります。

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