元方事業者の講ずべき措置

仕事の一部を下請企業などに請け負わせる場合、元方事業者には、関係請負人やその作業従事者が労働安全衛生関係法令に違反しないよう、必要な指導や是正の指示を行う義務があります。また、同じ場所で複数の事業者の作業が行われる場合には、業種に応じて、作業間の連絡・調整などの労働災害防止措置が必要です。

2026年4月1日施行の改正により、元方事業者による指導や混在作業に関する措置の対象は、労働者だけでなく、労働者と同じ場所で作業する個人事業者等にも拡大されています。 本稿では、この改正を踏まえて解説します。

※以下、労働安全衛生法を「法」、労働安全衛生規則を「則」と表記します。内容は2026年9月時点のものです。

目 次

  1. 元方事業者・関係請負人とは
  2. 業種によって異なる元方事業者の義務
  3. 全業種に共通する指導・是正指示義務
  4. 建設業における危険箇所への技術上の指導
  5. 特定元方事業者の講ずべき措置【建設業・造船業】
  6. 製造業の元方事業者の講ずべき措置【造船業を除く】

元方事業者・関係請負人とは

 

元方事業者とは、一つの場所で行う事業の仕事の一部を、請負人に請け負わせている事業者をいいます。重層的な請負関係がある場合には、法の定義上、最も先次の請負契約における注文者が元方事業者となります。

関係請負人には、元方事業者から直接仕事を請け負う者だけでなく、その仕事に関する二次下請、三次下請なども含まれます。したがって、元方事業者の指導等の対象は、直接契約している一次下請だけに限られません。〔法第15条第1項〕

鉄鋼業や化学工業などでは、工場の構内で製造工程の一部や設備の補修などを請け負う、いわゆる「構内下請企業」があります。このような場合も、各社が個別に安全衛生管理を行うだけでなく、元方事業者による事業者間の連絡・調整が重要になります。

業種によって異なる元方事業者の義務

 

元方事業者に求められる主な措置は、次のように整理できます。法第29条の指導・是正指示義務を基本として、建設業、造船業、製造業には、それぞれ追加の措置が定められています。

根拠条文 対象 主な義務 当該義務違反に対する直接の罰則
法第29条 全業種の元方事業者 関係請負人等への法令違反防止の指導、違反がある場合の是正指示 なし
法第29条の2 建設業の元方事業者 所定の危険箇所について、技術上の指導その他の必要な措置 なし
法第30条第1項 建設業・造船業の特定元方事業者 協議組織の設置、作業間の連絡・調整、巡視、教育への指導・援助など 50万円以下の罰金
法第30条の2第1項 製造業の元方事業者〔造船業を除く〕 作業間の連絡・調整、合図・標識等の統一など 50万円以下の罰金

法第30条第1項および第30条の2第1項の罰則は、法第120条第1号に定められています。なお、直接の罰則がない規定も、任意の取組ではなく法律上の義務です。

全業種に共通する指導・是正指示義務

 

法令違反を防ぐための指導

元方事業者は、関係請負人および関係請負人に係る作業従事者が、その仕事について労働安全衛生法や関係命令に違反しないよう、必要な指導を行わなければなりません。〔法第29条第1項〕

例えば、作業内容に応じて法令上必要となる局所排気装置の設置、保護具の使用、健康診断の実施などが、適切に行われるよう指導します。すべての作業に同じ措置を求めるのではなく、その作業に適用される法令上の義務を踏まえて指導することが必要です。

 

 

違反を認めた場合の是正指示

元方事業者が、関係請負人または関係請負人に係る作業従事者の法令違反を認めたときは、是正のために必要な指示を行わなければなりません。〔法第29条第2項〕

また、この指示を受けた関係請負人や作業従事者は、指示に従う義務があります。〔法第29条第3項〕

つまり、元方事業者には、違反を未然に防ぐための「指導」と、違反を認めた後の「是正指示」の両方が求められます。

建設業における危険箇所への技術上の指導

 

建設業の元方事業者は、法令で定める危険箇所で関係請負人に係る作業従事者が作業を行う場合、関係請負人による危険防止措置が適切に実施されるよう、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければなりません。〔法第29条の2〕

対象には、土砂の崩壊や土石流のおそれがある場所、所定の建設機械や移動式クレーンが転倒するおそれがある場所、架空電線への接触・接近による感電のおそれがある場所などがあります。それぞれ、対象となる場所や作業の範囲が則第634条の2で定められています。

特定元方事業者の講ずべき措置【建設業・造船業】

 

建設業・造船業の特定元方事業者は、自社の労働者等と関係請負人に係る作業従事者が同じ場所で作業することによって生じる労働災害を防止するため、必要な措置を講じなければなりません。〔法第30条第1項〕

このように、複数の事業者に係る作業が同じ場所で行われることを、一般に「混在作業」といいます。

 

主な措置と実施内容

講ずべき措置 実施内容
協議組織の設置・運営 特定元方事業者とすべての関係請負人が参加する協議組織を設置し、会議を定期的に開催します。〔則第635条〕
作業間の連絡・調整 特定元方事業者と関係請負人との間だけでなく、関係請負人相互間についても、随時、連絡・調整を行います。〔則第636条〕
作業場所の巡視 毎作業日に少なくとも1回、作業場所を巡視します。〔則第637条〕
安全衛生教育への指導・援助 関係請負人が行う労働者向けの安全衛生教育について、教育場所や資料の提供などを行います。〔則第638条〕
工程・設備配置等の計画作成と指導 仕事の工程や機械・設備等の配置に関する計画を作成し、関係請負人の作業計画等が全体計画に適合するよう指導します。この措置は建設業に限られます。〔則第638条の2~第638条の4〕
その他の労働災害防止措置 作業内容や現場の状況に応じて、クレーン等の合図、事故現場等の標識、有機溶剤等の容器の集積箇所、警報などを統一します。〔則第639条以降〕

これらは、法第30条第1項各号および関係規則に基づく措置です。協議組織への参加や巡視への協力など、関係請負人側にも守るべき事項が定められています。

 

安全衛生教育は「実施」と「指導・援助」を区別する

関係請負人の労働者に対する法定の安全衛生教育は、その労働者を雇用する関係請負人が実施義務を負います。これに対し、法第30条第1項第4号に基づく特定元方事業者の役割は、関係請負人が行う教育への指導・援助です。

したがって、元方事業者が支援するからといって、関係請負人自身の教育義務がなくなるわけではありません。

 

建設業では、新規入場者への周知も支援する

建設業の特定元方事業者は、関係請負人に係る新たな作業従事者に対し、関係請負人が現場の状況や作業相互の関係などを周知できるよう、場所や資料の提供などを行う必要があります。周知する現場の状況には、危険を生じるおそれのある箇所の状況も含まれます。

ただし、特定元方事業者が自らこれらの事項を周知する場合は、関係請負人への場所・資料の提供等に代えることができます。〔則第642条の3〕

このため、「元方事業者は下請の作業従事者に直接説明してはいけない」という意味ではありません。 教育への指導・援助と、現場の危険情報などの周知は、区別して理解することが大切です。

 

統括安全衛生責任者との関係

法第30条第1項各号の措置は、統括安全衛生責任者が統括管理する事項でもあります。

ただし、統括安全衛生責任者の選任義務と、特定元方事業者の措置義務は別です。 現場の規模等により統括安全衛生責任者の選任が不要であっても、法第30条の適用対象となる混在作業について、必要な措置を省略することはできません。〔法第15条・第30条〕

製造業の元方事業者の講ずべき措置【造船業を除く】

 

建設業・造船業の特定元方事業者は、自社の労働者等と関係請負人に係る作業従事者が同じ場所で作業することによって生じる労働災害を防止するため、必要な措置を講じなければなりません。〔法第30条第1項〕

なお、造船業は特定事業として法第30条の対象となるため、ここで説明する製造業からは除かれます。

 

主な措置

講ずべき措置 実施内容
作業間の連絡・調整 元方事業者と関係請負人との間、および関係請負人相互間で、随時、連絡・調整を行います。〔則第643条の2〕
クレーン等の合図の統一 対象となるクレーン等を使用する場合、運転に関する合図を統一し、関係請負人に周知します。〔則第643条の3〕
事故現場等の標識の統一 法令で定める事故現場や危険場所等がある場合、それらを示す標識を統一し、関係請負人に周知します。〔則第643条の4〕
有機溶剤等の容器の集積箇所の統一 対象となる容器を集積する場合、その場所を統一し、関係請負人に周知します。〔則第643条の5〕
警報の統一等 火災の発生時や、所定のエックス線装置・放射性物質を装備した機器の使用時などの警報を統一し、関係請負人に周知します。〔則第643条の6〕

例えば、クレーン等の合図を元方事業者が統一した場合、元方事業者と関係請負人は、それぞれの作業でも、その統一された合図と同じものを用いる必要があります。会社ごとに異なる合図を使用するのではなく、現場全体で認識をそろえることが求められます。

 

建設業・造船業との違い

製造業の元方事業者に、建設業・造船業と同じ内容の措置が、すべて法第30条の2によって義務付けられているわけではありません。

一方、厚生労働省の「製造業における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針」では、関係請負人との協議、作業場所の巡視、安全衛生教育への指導なども示されています。法令上の義務と指針に基づく取組を区別したうえで、現場全体の安全衛生管理を進めることが重要です。

 

 

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