厚生年金保険法 
支給停止及び失権

障害厚生年金の受給権者の障害の程度が軽くなったり、重くなったりした場合には、年金額が改定されます。

 

目 次

  1. 障害補償による支給停止
  2. 失権

障害補償による支給停止

 

障害厚生年金は、その受給権者が当該傷病について労働基準法の障害補償を受ける権利を取得したときは、6年間、その支給が停止される。(法54条1項)

 

労働基準法における障害補償とは、労働者が業務上の事由によって負傷または疾病にかかり、その結果として身体に障害が残った場合に、使用者が支払わなければならない法定補償のことをいいます。

これは労働基準法第77条に定められている制度で、いわゆる「労災事故」によって後遺障害が残った場合の補償です。


1. 障害補償が発生する要件

次の要件を満たす場合に発生します。

  • 業務上の負傷または疾病であること

  • 治療が終了(症状固定)したこと

  • その結果、身体に障害が残ったこと

ここでいう「業務上」とは、業務遂行性および業務起因性が認められる場合をいいます。


2. 補償の内容

障害の程度に応じて、平均賃金を基礎とした一定日数分の補償を行います。

労働基準法では、障害の程度を1級~14級に区分し、それぞれ次のような日数が定められています。

  • 第1級:平均賃金の 1340日分

  • 第2級:1190日分

  • 第3級:1050日分

  • 第4級:920日分

  • 第5級:790日分

  • 第6級:670日分

  • 第7級:560日分

  • 第8級:450日分

  • 第9級:350日分

  • 第10級:270日分

  • 第11級:200日分

  • 第12級:140日分

  • 第13級:90日分

  • 第14級:50日分

支払いは一時金です。


3. 労災保険との関係

現在は、通常は労災保険法による「障害補償給付」が優先して支払われます。

労災保険が適用される事業場では、

  • 原則として労災保険から給付が行われる

  • 使用者は直接支払う義務を免れる(労基法84条)

という関係になります。

つまり、実務上は多くの場合「労災保険の障害補償給付」が問題になります。


4. 他の補償との違い

労働基準法の災害補償には、障害補償のほかに

  • 療養補償(治療費)

  • 休業補償

  • 遺族補償

  • 葬祭料

などがあります。

障害補償は、治療終了後に後遺障害が残った場合に支払われる補償である点が特徴です。


まとめ

労働基準法の障害補償とは、業務上の負傷・疾病によって後遺障害が残った場合に、障害等級に応じて平均賃金の50日~1340日分を使用者が支払う法定補償制度 です

労災保険法の規定による障害補償等年金を受けることができるときは障害厚生年金支給停止されず障害補償等年金が減額調整されます

失権

 

障害厚生年金の失権事由は、「障害厚生年金を受ける権利そのものが消滅する場合」を定めたものです。

特によく問われるのが、「3級にも該当しなくなった場合」の失権時期です。


① 受給権者が死亡したとき

これは最も分かりやすい失権事由です。

受給権者が死亡すると、その人の障害厚生年金の受給権は消滅します。


② 障害が軽くなり、3級にも該当しなくなった場合

ここが最重要ポイントです。

例えば、

  • 3級の障害厚生年金を受給していた
  • 症状が改善した
  • 障害等級に該当しなくなった

この時点ではすぐには失権しません。 法律は、

回復する可能性や再び悪化する可能性

を考慮して、一定期間は受給権を残しています。


いつ失権するのか?

次の2つを比べて、

65歳に達したとき

3級にも該当しなくなってから3年を経過したとき

この遅い方に達したときに失権します。


例①

60歳で3級にも該当しなくなった場合

  • 60歳 障害改善
  • 63歳 3年経過
  • 65歳 到達

遅いのは

65歳

したがって

65歳で失権


例②

64歳で改善した場合

  • 64歳 改善
  • 65歳 到達
  • 67歳 3年経過

遅いのは

67歳

したがって

67歳で失権


例③

66歳で改善した場合

  • 66歳 改善
  • 65歳は既に経過
  • 69歳 3年経過

遅いのは

69歳

したがって

69歳で失権


なぜ「遅い方」なのか

65歳以降も障害が再び悪化する可能性があるため、

「すぐに受給権を消してしまう」のではなく、

最低でも3年間は受給権を残す

という趣旨です。 そのため、

65歳になっただけでは失権せず、3年経過の方が遅ければその時点まで受給権が維持されます。


③ 併合認定により新しい障害厚生年金を取得したとき

例えば

  • 右足の障害で3級を受給中
  • その後、左手にも障害が生じた

すると、 前後の障害を合わせて(併合認定)

2級の障害厚生年金

を新たに受けることがあります。 この場合、

以前の3級の受給権は消滅し、

新しい障害厚生年金の受給権に一本化されます。 つまり、

  • 旧3級の受給権 → 失権
  • 新2級の受給権 → 新たに発生

という整理になります。


ポイント

特に覚えるべきなのは次の点です。

  • 死亡 → 失権
  • 3級にも該当しなくなった場合 → 「65歳到達」と「3年経過」の遅い方で失権
  • 併合認定で新たな障害厚生年金を取得 → 旧受給権は失権

 

よくあるひっかけ

「障害等級3級に該当しなくなった時点で失権する」

というのは誤りです。

正しくは、

「65歳到達」と「3年経過」のうち、遅い方に到達した時点で失権する。

この「遅い方」という表現は、確実に押さえておきましょう。

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