労災保険法
支給制限

支給制限には

絶対的支給制限

相対的支給制限

一時差止め

の3種類があります。

 

ポイント

  • 絶対的支給制限は、労働者が故意に事故や負傷等を生じさせた場合で、保険給付は全部不支給となる。
  • 相対的支給制限は、故意の犯罪行為・重大な過失・療養指示違反が対象で、全部または一部を支給しないことができる。
  • 故意の犯罪行為・重大な過失による支給制限は、休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金・障害(補償)等年金が対象で、原則30%減額となる。
  • 傷病(補償)等年金・障害(補償)等年金の30%減額は、療養開始後3年以内に支給されるものに限られる。
  • 遺族(補償)等給付は支給制限の対象とならない。
  • 一時差止めは、届出・報告・書類提出・受診命令などに従わない場合に行われ、後に履行すれば支払われる。
  • 支給制限は労働者本人に対する制度、費用徴収は事業主に対する制度である。

 

一言で総まとめ

「故意なら全部不支給(絶対的支給制限)、犯罪・重大過失・療養指示違反なら原則30%減額などの相対的支給制限、届出や命令違反なら受給権は失わず一時差止め。支給制限は労働者本人、費用徴収は事業主が対象である。」

 
 

目 次

  1. 絶対的支給制限
    1. 各法律における支給制限
    2. 全部不支給
  2. 相対的支給制限
    1. 支給制限の範囲(故意の犯罪行為又は重大な過失の場合)
  3. 一時差止め
    1. 「命令違反」の制限内容

絶対的支給制限

(法12条の2の2第1項)

 

結論

故意に事故や負傷等を発生させたときは、保険給付は一切支給されません。


要件

労働者が

  • 故意に負傷した
  • 故意に疾病になった
  • 故意に障害となった
  • 故意に死亡した
  • 故意にその直接の原因となる事故を起こした

効果

保険給付を行わない(全部不支給)


「直接の原因」とは

労働者の故意の行為によって、

直接かつ即座に事故が発生したことをいいます。


覚え方

故意=ゼロ(全部不支給)

 

 

各法律における支給制限

 

  労災保険法

国民年金法

厚生年金保険法

健康保険法
支給制限
支給制限労働者本人に対する規定
故意に
(わざと)
絶対的支給制限 絶対的支給制限 絶対的支給制限
故意の犯罪行為(無免許飲酒運転など)

相対的給付制限

  • 原則 30%減額 「休」「傷」「障」
  • 原則 10日減額 「休」「傷」
相対的給付制限
重大な過失(闘争・泥酔等) 相対的給付制限
療養に関する指示違反 相対的給付制限(一部)
命令違反 一時差止め 支給停止 相対的給付制限
届出義務違反 一時差止め

故意の犯罪行為」、「重過失又は療養に関する指示違反の場合は原則として相対的支給制限となります
医療保険である健康保険法においては「故意の犯罪行為」は、絶対的支給制限となり、「療養に関する指示違反」は一部不支給となっています)。

 

全部不支給

健康保険法(国民健康保険法及び高齢者医療確保法)と年金給付のある法律でルールが異なる。

 

労災保険法 健康保険法 国民年金法・厚生年金保険法
労働者が、故意負傷、疾病、障害若しくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせたとき 自己の故意の犯罪行為、又は故意に給付事由を生じさせたとき

故意に障害又はその直接の原因となった事故を生じさせた場合

  • これを支給事由とする障害基礎年金は支給しない
  • 当該障害を支給事由とする障害厚生年金又は障害手当金は支給しない
   

被保険者又は被保険者であった者を故意に死亡させた者

  • 遺族基礎年金、寡婦年金又は死亡一時金は支給しない
  • 遺族厚生年金は支給しない
   

被保険者又は被保険者であった者の死亡前に、その者の死亡により遺族基礎年金又は死亡一時金(遺族厚生年金)の受給権を有する者を故意に死亡させた者

  • 遺族基礎年金又は死亡一時金は支給しない
  • 遺族厚生年金は支給しない

相対的支給制限(法12条の2の2第2項)

 

結論

全部ではなく、

全部または一部を支給しないことができる。


対象となる事由

① 故意の犯罪行為

  • 無免許運転
  • 飲酒運転
  • 危険運転

② 重大な過失

  • 泥酔
  • 闘争

③ 療養指示違反

正当な理由なく

医師等の療養指示に従わない場合


効果

政府は

全部又は一部を支給しないことができる。

(裁量)


 

 → 参照 各法律における支給制限

支給制限の範囲(故意の犯罪行為又は重大な過失の場合)

支給制限の内容

故意の犯罪行為・重大な過失の場合

対象になるのは

  • 休業(補償)等給付
  • 傷病(補償)等年金
  • 障害(補償)等年金

減額

30%減額

になります。


年金は注意

傷病年金・障害年金は

療養開始後3年以内に支給されるもの

だけが対象です。


支給制限されない給付

ここは頻出です。

遺族(補償)等給付 

支給制限されません。


覚え方

犯・重・療

(犯罪・重大過失・療養指示違反)


労働基準法との関係

労基法78条では

重大な過失の場合

  • 休業補償
  • 障害補償

のみ免責されます。

そのため

労災保険でも

支給制限される給付は限定されています。

一時差止め(法47条の3)

 

結論

受給権は失われません。

一時的に支払いを止めるだけです。


対象

正当な理由なく

  • 届出をしない
  • 書類を提出しない
  • 報告しない
  • 受診命令に従わない

効果

保険給付の支払を

一時差し止めることができる。


注意

後で命令に従えば

留保していた給付は

支払われます。

つまり

不支給ではありません。


「費用徴収」との違い

混同しやすいので整理しましょう。

制度 対象
支給制限 労働者本人
費用徴収 事業主

費用徴収の例

  • 保険関係成立届の未提出
  • 保険料滞納
  • 事業主の故意・重大な過失による災害

これらは事業主への制裁であり、労働者への支給制限とは異なります。

 

「命令違反」の制限内容

支給停止の場合は、その後支給されることはありませんが、一時差止めの場合は、差止め事由が解消されたときにさかのぼって支給が行われます。

法令(条文) 命令違反となる場面 制限内容
労災保険法
(法47条の3)
届出をせず、若しくは書類その他の物件の提出をしないとき、又は労働者及び受給権者の報告、出頭等及び受診命令の規定による命令に従わないとき 一時差止め
健康保険法
(法121条)
保険者は、保険給付を受ける者が、正当な理由なしに、命令に従わず、又は答弁若しくは受診を拒んだとき 相対的給付制限
国民年金法
(法72条)
① 被保険者が、正当な理由がなくて、命令に従わず、又は当該職員の質問に応じなかったとき
② 障害基礎年金の受給権者又は子が、正当な理由がなくて、命令に従わず、又は当該職員の診断を拒んだとき
支給停止
厚生年金保険法(法77条) ① 受給権者が、正当な理由がなくて、命令に従わず、又は当該職員の質問に応じなかったとき
② 障害等級に該当する程度の障害の状態にあることにより、年金たる保険給付の受給権を有し、又はその者について加算が行われている子が、正当な理由がなくて、命令に従わず、又は診断を拒んだとき

支給停止

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