厚生年金保険法 特別支給の老齢厚生年金
失業等給付との調整

  1. 雇用保険法における「基本手当」は、失業し求職している者に支給される給付であるのに対し、
  2. 「老齢厚生年金」は、退職者の生活を保障するために支給される給付です。

これらの併給は矛盾しており、また、同一の期間に対して所得保障を行うこととなるため、両方の給付が重複して支給されることは社会保障として過剰となるとの理由で、これらは給付調整が行われます。

 

目 次

  1. 基本手当との調整
  2. 支給停止されない場合
  3. 事後精算
  4. 高年齢雇用継続給付との調整
  5. 繰上げ支給の老齢基礎年金との調整

基本手当との調整

 

特別支給の老齢厚生年金特別支給の老齢厚生年金、繰上げ支給の老齢厚生年金)は、当該受給権者(基本手当の受給資格を有する者に限る)が、失業の認定を受けるために公共職業安定所において求職の申込みをしたときは、当該求職の申込みがあった月の翌月から次のいずれかに該当するに至った月までで各月において、その支給が停止される。(附則7条の4第1項、附則11条の5)

 

基本手当との調整
  1. 当該受給資格に係る受給期間が経過しとき。
  2. 当該受給権者が当該受給資格に係る所定給付日数に相当する日数分の基本手当の支給を受け終わったとき(延長給付を受ける者にあっては、当該延長給付が終わったとき。)。

この調整は、「平成10年4月1日前に受給権を取得した特別支給の老齢厚生年金については適用されません(平成6年附則25条1項)

  • この基本手当との調整規定は受給権者が求職の申込みを行わないときは、適用されません
  1. 雇用保険の基本手当を受給する期間中は65歳前に支給される特別支給の老齢厚生年金老齢厚生年金の繰上げ支給雇用保険との給付調整により全額支給停止されま
  2. これに対して65歳以後に支給される本来の老齢厚生年金については雇用保険の基本手当との併給調整は行われません
  • 雇用保険法との調整は、「基本手当または高年齢雇用継続給付との調整であり高年齢求職者給付金との調整ではありません
  • この基本手当との調整は、「報酬比例部分のみならず、「定額部分」、「加給年金額についても行われます

 

 

参照 

高在老」 

  • (老齢厚生年金-(加給年金額、繰下げ加算額、経過的加算額))÷12

    =(報酬比例部分)÷12

 

低在老

  • (特別支給の老齢厚生年金-加給年金額)÷12

    =(報酬比例部分+定額部分)÷12

支給停止されない場合

 

調整対象期間の各月において、その月において、当該老齢厚生年金の受給権者が基本手当の支給を受けた日とみなされる日及びこれに準ずる日として政令で定める日ない場合、その月分の老齢厚生年金の支給停止は行われない。(附則7条の4第2項、附則11条の5)

  • 基本手当の支給を受けた日とみなされる日」とは、失業をしていることについての認定を受けた日のうち、基本手当の支給に係る日数分が、失業の認定日直前の各日にあるとみなした日のことをいいます。(則34条の3)
    つまり、実際に基本手当の支給を受けた日をいうのではなく、基本手当の支給がされる日を失業の認定日の前日まで連続していると仮定した場合の日ということになります。
    失業の認定日の前日まで失業の認定日がない場合は「基本手当の支給を受けた日とみなされる日」が1日もないと日となるため、支給停止が解除されることになります。

 

これに準ずる日として政令で定める日」とは、次の通りである。(令6条の4)

1

待期期間

雇用保険法21条 基本手当の待期期間
2 就職拒否または訓練受講拒否による給付制限期間 雇用保険法32条1項 不正受給以外の事由による給付制限期間
3 職業指導拒否による給付制限期間 雇用保険法32条2項
4 離職理由による給付制限期間 雇用保険法33条1項

これに準ずる日として政令で定める日」が属する月は、現実には基本手当の支給を受けていませんが、特別支給の老齢厚生年金は支給停止されることになります
 ただし、この場合、「事後精算の仕組みによって支給停止が解除されます

事後精算

 

調整対象期間の各月のうち、老齢厚生年金の「年金停止月の数から当該老齢厚生年金の受給権者が「基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数1未満の端数が生じたときは、1に切り上げる)」を控除して得た数が1以上であるときは、年金停止月のうち、当該控除して得た数に相当する月数分の直近の各月については、老齢厚生年金の支給停止が行われなかったものとみなされ、その直近の支給停止月から順次前の支給停止月に遡って支給停止が解除される。(附則7条の4第3項、附則11条の5)

 

事後精算による支給停止解除月数
 (事後精算による支給停止解除月数)=(支給停止月数)-(基本手当の支給対象となった日数)/ 30

 

 

【例1】

 

① 4月20日に求職の申込みをした場合

ハローワークで求職の申込みをすると、「失業の状態」として雇用保険の手続きが始まります。

この時点で、

年金は翌月の5月から支給停止になります

年金は月単位で処理されるため、4月中に申込みをすると、翌月の5月分から止まります。


② 給付制限が3か月あるケース

自己都合退職などの場合、すぐに失業手当は支給されず、通常3か月の「給付制限」があります。

この例では、

  • 実際に基本手当を受け取ったのは
    → 8月・9月・10月

という設定です。


③ ポイントは「給付制限期間」も対象になること

重要なのはここです。

法律上、

「不正受給以外の理由による給付制限期間」も
「これに準ずる日(政令で定める日)」に該当する

とされています。

つまり、

  • 実際に失業手当を受け取っていない

  • でも給付制限中である

この期間も、年金は支給停止になるということです。


④ 結論

したがって、

  • 5月(給付制限)

  • 6月(給付制限)

  • 7月(給付制限)

  • 8月(基本手当受給)

  • 9月(基本手当受給)

  • 10月(基本手当受給)

→ 合計6か月間

5月から10月まで年金は支給停止になる

という意味です。


まとめると

「失業手当を実際にもらった月だけ止まる」のではなく、

✅ 求職の申込みをした翌月から
✅ 給付制限期間も含めて
✅ 基本手当の対象となる期間すべて

 

年金は支給停止される、という説明です。

 

 

【例2】

 

①4月20日に求職の申込み

  • 年金は翌月の 5月から支給停止

  • 自己都合退職などで 3か月の給付制限


 

② 給付制限期間(3か月)

  • 5月

  • 6月

  • 7月

※この期間は失業手当をまだもらっていない

しかし、

「不正受給以外の給付制限期間」も年金停止対象になる

ため、この3か月も年金は止まります。


③ 実際に基本手当を受けた期間

  • 8月

  • 9月

  • 10月

  • 11月

今回は、前回より1か月多く、11月まで受給しています。

この4か月も当然、年金は支給停止になります。


④ 結果

停止期間は

  • 5月(給付制限)

  • 6月(給付制限)

  • 7月(給付制限)

  • 8月(受給)

  • 9月(受給)

  • 10月(受給)

  • 11月(受給)

→ 合計 7か月

つまり、

基本手当の支給対象となる期間(給付制限を含む)が11月まで続いたため、
年金も5月から11月まで止まる

という意味です。


本質的な考え方

ポイントは、

「実際にお金をもらった月」ではなく、
「基本手当の対象期間(給付制限を含む)」で判断する

ということです。


前回との違い

ケース 基本手当受給 年金停止
前回 8~10月 5~10月(6か月)
今回 8~11月 5~11月(7か月)

受給月が1か月増えれば、停止も1か月増える という仕組みです。

 

 

① 基本手当の受け方で停止期間が変わる問題

例えば、

  • 受給が10月で終わる人 → 年金停止6か月

  • 受給が11月まで続く人 → 年金停止7か月

となります。

つまり、

実際の受給日数が大きく違わなくても 受給終了月が1か月ズレるだけで 年金停止月数が増減する

という問題です。

これは制度設計上、「月単位」で停止する仕組みになっているために起こります。


② 実際にお金をもらっていないのに止まる問題

  • 待期期間

  • 給付制限期間(自己都合退職など)

この期間は、

✔ 基本手当は1円も支給されていない
✔ しかし法律上は「これに準ずる日」に該当

そのため、

年金は止まる という現象が起きます。

つまり、 「失業手当をもらっていない月まで年金が止まる」 という不合理が生じます。


そこで出てくる「事後精算」とは?

この不合理を修正するために、 最終的な基本手当の受給日数が確定した後に 年金停止期間を再計算する

という仕組みが用意されています。

これを「事後精算」といいます。


どういう仕組みか

年金は一旦、

  • 求職申込みの翌月から

  • 給付制限も含めて

機械的に止めます。

しかしその後、

✔ 実際に何日分の基本手当を受給したか
✔ 何か月が本来停止対象か

を確定させ、 本来より長く止めすぎていた分があれば まとめて年金を支給する

という調整が行われます。

 


イメージで言うと

最初は「仮止め」
後で「本計算して返金」

という二段階方式になっているのです。


なぜこんな仕組みか?

理由は、

  • 基本手当の受給状況は途中では確定しない

  • 受給日数や終了時期が変動する

  • 行政処理を簡素にする必要がある

 

からです。

【事後精算】

  1.  基本手当の支給を受けたとみなされる日の数100日30で除します。 100日÷30日=3.3333333…
  2.  1.において端数が発生したときは1に切上げます
  3.  調整対象期間8か月間から2.の数をマイナスします
  4.  すなわち8か月-4か月=4か月となり直近の支給停止月からさかのぼって4か月間支給停止を解除します

 

具体例
  •  基本手当の受給期間満了後に5か月の年金停止月100日の基本手当の支給を受けたとみなされる日数があるとき

 →100日÷30=3.3→4か月(端数切り上げ)

 →5か月-4か月=1か月の支給停止解除

 

  •  基本手当の受給期間満了後に4か月の年金停止月90日の基本手当の支給を受けたとみなされる日数があるとき

 →90日÷30=3か月

 →4か月-3か月=1か月の支給停止解除

 

高年齢雇用継続給付との調整

 

特別支給の老齢厚生年金の受給権者被保険者である日が属する月について、その者が高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、在職老齢年金による支給停止に加え、当該月分の老齢厚生年金について次の調整が行われる。(附則7条の5第1項、附則11条の6第1項)

 

要件 調整額
 標準報酬月額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の100分の64に相当する額未満であるとき  (標準報酬月額)×(100分の4
 標準報酬月額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の100分の64に相当する額以上100分の75に相当する額未満であるとき  標準報酬月額に、100分の4から一定の割合で逓減するように厚生労働省令で定める率を乗じて得た額
 

 

高年齢再就職給付金についても同様に調整が行われます。(附則11条の6第8項、附則7条の5第5項)

  • 高年齢雇用継続給付高年齢雇用継続基本給付金または高年齢再就職給付金とは原則として雇用保険の加入期間が5年以上である60歳以上65歳未満の加入者に対して賃金額が60歳到達時の75%未満になった人を対象最高で賃金額の10%相当額が支払われるものです
  • 特別支給の老齢厚生年金または繰上げ支給の老齢厚生年金の受給権者が、厚生年金保険の被保険者であるときは、「在職老齢年金による支給停止」と「継続給付との調整」を受ける可能性があります。
  • 例えば、みなし賃金日額に30を乗じて得た額が500,000円で、支給対象月の賃金が300,000円(標準報酬月額300,000円)となった場合、高年齢雇用継続基本給付金が最大の30,000円(賃金額300,000円×10%=30,000円)支給されます。
     この場合において、特別支給の老齢厚生年金の基本月額が140,000円であるときは、総報酬月額相当額(300,000円)との合計は440,000円となり、在職老齢年金の支給停止基準額である62万円を下回るため、在職老齢年金による支給停止は行われません。
     さらに、高年齢雇用継続基本給付金30,000円の支給を受けていることについて、12,000円(標準報酬月額300,000円×4%=12,000円)が支給停止されます。

 

 

具体例

年金額が240万円総報酬月額相当額30万円標準報酬月額26万円、その月以前1年間の標準賞与額の総額を12で除して得た額4万円の合算額)である者が、高年齢雇用継続基本給付金を受給している(60歳到達時のみなし賃金日額に30を乗じて得た額50万円とする)場合の、

① 在職老齢年金のしくみにより支給される年金月額、

② 高年齢雇用継続基本給付金の受給による調整額を求めよ。

 

  •  総報酬月額相当額=30万円
  •  基本月額 = 240万円/12=20万円
 →在職老齢年金による支給停止額
  ((30万円+20万円)-62万円)×1/2<0
 →支給される年金月額
  20万円ー0万円=20万円
  •  50万円×64/100=320,000円>26万円→支給停止は標準報酬月額の4%相当額
 →高年齢雇用継続基本給付金との調整額
  26万円×4/100=10,400円

高年齢雇用継続基本給付金とは、

60歳以降も働き続けている人で
60歳到達時と比べて賃金が大きく下がった場合に

その減少分の一部を補填するために支給される
雇用保険の給付です。


制度の趣旨

60歳を過ぎると、

  • 定年再雇用

  • 契約社員化

  • 役職定年

などにより、賃金が下がるケースが多いです。

その結果、

「働き続けたいけれど収入が大きく減る」

という問題が生じます。

そこで、

✔ 高齢者の就労継続を促す
✔ 急激な収入減を緩和する

ために設けられている制度です。


支給対象となる人

主な要件は次のとおりです。

① 60歳以上65歳未満

② 雇用保険の被保険者であること

③ 60歳時点と比べて賃金が75%未満に低下していること

これが最重要ポイントです。


支給額のイメージ

賃金の低下率に応じて支給率が決まります。

最大で

低下後の賃金の 10%

が支給されます。

(※賃金が64%以下に下がった場合が上限)


60歳到達時の賃金:月40万円
60歳以降の賃金:月24万円(60%)

この場合、

最大10%支給されるので、

24万円 × 10% = 2万4,000円

が支給されます。


注意点(重要)

この給付金は、

✔ 老齢厚生年金と併給調整がある

というのが大きな特徴です。

つまり、

特別支給の老齢厚生年金を受けている人は、
年金が一部支給停止されることがあります。


他の給付との違い

給付 内容
基本手当 失業中にもらう
高年齢雇用継続基本給付金 働き続けている人がもらう

失業給付とは全く性質が違います。


まとめ

高年齢雇用継続基本給付金とは、

60歳以降も働く人の賃金低下を補うための雇用保険給付 です。

繰上げ支給の老齢基礎年金との調整昭和16年4月1日以前生まれの者

 

昭和16年4月1日以前生まれの者が、繰上げ支給の老齢基礎年金の支給を受けることができるときは、その間、特別支給の老齢厚生年金全額支給が停止される。(平成6年附則24条1項・2項)

  • 昭和16年4月1日以前生まれの者特別支給の老齢厚生年金定額部分と報酬比例部分と老齢基礎年金は併給できないことになっています
    もし老齢基礎年金を繰上げた場合その間特別支給の老齢厚生年金の全額が支給停止されます
  • この世代は減額率の考え方が現在と異なり、60歳で繰上げ請求した場合には42%(同様に61歳で35%、62歳で28%、63歳で20%、64歳で11%)の減額となります(年単位での減額)。

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