労使協定

「労使協定」とは、労働基準法に基づき、使用者と労働者側の代表との間で締結する書面による協定です。

労使協定は「会社全体」ではなく、原則として「事業場単位」で締結する

という点が重要です。

 

労使協定で最も重要なのは、

 

 

① 誰と締結するのか

過半数労働組合がある場合
→ その労働組合

ない場合
→ 適法に選出された過半数代表者

です。(法18条、法24条、法36条ほか)

厚生労働省も、労使協定の締結について、過半数労働組合がある場合にはその労働組合、ない場合には過半数代表者を労働者側の当事者とする制度として整理しています。

 

② 過半数代表者は会社が指名できない

投票・挙手等の民主的な手続

によって選出し、

使用者の意向に基づいて選出された者であってはなりません。

 

③ 管理監督者は原則として過半数代表者になれない

ただし、

過半数を計算する際の労働者には含まれます。

 

④ 労使協定すべてに届出が必要なわけではない

協定によって、

  • 届出が必要
  • 届出不要

に分かれます。

 

⑤ 36協定は特別

36協定は、

締結だけでは足りず、届出をして初めて時間外・休日労働について労基法上の効果が生じる

点が重要です。

そして何より、

過半数代表者の選出が間違っていれば、せっかく作った労使協定そのものが無効となり得る

ため、協定書の内容だけでなく、

「誰が、どのような手続で代表者に選ばれたのか」

 

まで確認しておくことが重要です。

 

目 次

  1. 労使協定の締結当事者
  2. 過半数代表者
  3. 労使協定の届出など
  4. 36協定

労使協定の締結当事者

 

労使協定の労働者側の当事者は、次のとおりです。

事業場の状況 労働者側の締結当事者
労働者の過半数で組織する労働組合がある その労働組合
過半数労働組合がない 過半数代表者

ここでいう「過半数」は、

その事業場に使用される労働者全体の過半数

を意味します。

過半数代表者

 

過半数労働組合がない場合には、

「労働者の過半数を代表する者」

を選出します。

ただし、会社が適当に代表者を指名してよいわけではありません。

労働基準法施行規則6条の2第1項では、過半数代表者について、次の両方の要件を満たすことを求めています。

 

過半数代表者の2つの要件

① 管理監督者ではないこと

労働基準法41条2号に規定する

「監督または管理の地位にある者」

でないことが必要です。

ただし、管理監督者であっても労働基準法上の「労働者」であることに変わりはありません。

したがって、

過半数を計算するときの「労働者」には含まれる

一方で、

過半数代表者には原則としてなれない

という関係になります。


② 民主的な方法で選出されていること

過半数代表者は、

「労使協定を締結する代表者を選ぶ」ことを明らかにしたうえで

  • 投票
  • 挙手
  • 回覧による信任

など、労働者の意思を確認できる方法によって選出する必要があります。

そして、

使用者の意向に基づいて選出された者であってはなりません。


このような選び方はNG

例えば、次のような方法では適法な過半数代表者とは認められません。

  • 社長が代表者を指名する
  • 会社が候補者を一方的に決める
  • 親睦会の代表者を自動的に過半数代表者とする
  • 課長など一定の役職者を自動的に代表者とする
  • 一部の役職者だけで互選する

重要なのは、

その人が過半数代表者として労使協定を締結することについて、事業場の労働者の過半数の意思が反映されていること です。


「投票」でなければダメ?

必ずしも投票である必要はありません。

例えば、

候補者を1名決める

 ↓

「この人を36協定の過半数代表者とすることに賛成ですか」と全労働者に確認

 ↓

挙手・投票・回覧などによって過半数の支持を確認

という方法でも構いません。

ポイントは、

労働者に賛否を判断する機会が与えられていること です。


使用者は過半数代表者に不利益な取扱いをしてはならない

使用者は、労働者が、

  • 過半数代表者になったこと
  • 過半数代表者になろうとしたこと
  • 過半数代表者として正当な行為をしたこと

を理由として、不利益な取扱いをしないようにしなければなりません。

さらに、過半数代表者が労使協定等に関する事務を円滑に行えるよう、

必要な配慮を行うこと

も使用者に求められています。(則6条の2第3項・第4項)


過半数代表者の選出が不適切だったら?

過半数代表者が適法に選出されていなければ、

その者との間で締結した労使協定が有効と認められないことがあります。

特に36協定では重大です。

36協定が無効であれば、

法定労働時間を超えて労働させるための労基法上の根拠を失う

ことになります。


トーコロ事件 最高裁平成13年6月22日第二小法廷

トーコロ事件では、36協定を締結した労働者側の代表者が、本当に

「労働者の過半数を代表する者」

であったかが問題となりました。

最高裁は、適法な過半数代表者というためには、

労働者が、その者を36協定の締結当事者とすることについて判断する機会があり、かつ、過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続

が必要であるとしました。


「親睦会の代表者」だから代表者、ではダメ

この事件では、会社の全従業員によって構成された

「友の会」 という団体の代表者が36協定を締結していました。

しかし、「友の会」は、

会員相互の親睦や福利増進などを目的とする親睦団体

であり、労働組合ではありませんでした。

そして、

親睦会の代表者になったことだけを理由として、自動的に36協定の労働者代表になることはできない

とされました。

その結果、

36協定は有効とは認められず、その36協定を前提とした残業命令についても、労働者に従う義務があるとは認められない

と判断されました。

 

ポイント

親睦会代表
= 過半数代表者

ではありません。

過半数代表者は、

労使協定を締結する者を選ぶという目的を明らかにしたうえで、改めて適法に選出する

必要があります。

労使協定は労基署への届出が必要?

 

ここもよく混同されます。

労使協定を締結したら、すべて労働基準監督署へ届け出る

というわけではありません。

労使協定には、

① 届出が必要なもの と

② 締結だけでよく、届出が不要なもの

があります。

さらに、届出が必要な労使協定の中でも、

36協定は「届出」の意味が他の労使協定と異なる

ので注意が必要です。

厚生労働省が現在掲載している様式でも、1か月単位・1年単位の変形労働時間制、清算期間1か月超のフレックスタイム制、36協定、事業場外労働、専門業務型裁量労働制などについて届出様式が設けられています。


主な労使協定の届出一覧

労使協定 根拠 労基署への届出 有効期間の定め
任意貯金 法18条2項 必要 ―
賃金の一部控除 法24条1項 不要 ―
1か月単位の変形労働時間制※ 法32条の2 必要 必要
フレックスタイム制(清算期間1か月以内) 法32条の3 不要 ―
フレックスタイム制(清算期間1か月超) 法32条の3 必要 必要
1年単位の変形労働時間制 法32条の4 必要 必要
1週間単位の非定型的変形労働時間制 法32条の5 必要 ―
休憩の一斉付与の例外 法34条2項 不要 ―
時間外・休日労働(36協定) 法36条 必要 必要
代替休暇 法37条3項 不要 ―
事業場外労働のみなし労働時間制 法38条の2 条件により必要 ―
専門業務型裁量労働制 法38条の3 必要 必要
年休の時間単位付与 法39条4項 不要 ―
年休の計画的付与 法39条6項 不要 ―
年休中の賃金を標準報酬日額で支払う場合 法39条9項 不要 ―

※1か月単位の変形労働時間制は、労使協定によらず就業規則等によって導入することもできます。 労使協定によって導入した場合に、その協定の届出が必要となります。

また、清算期間が1か月以内のフレックスタイム制は協定の届出不要ですが、1か月を超える場合には届出が必要です。


届出が必要な労使協定

主なものは次のとおりです。

 

任意貯金

法18条2項

労働者から委託を受けて貯蓄金を管理する場合には、労使協定を締結し、

労働基準監督署長へ届け出なければなりません。

なお、法18条2項の届出義務違反そのものについては、法120条の罰則対象として掲げられていません。


1か月単位の変形労働時間制

法32条の2第2項

労使協定によって導入する場合には、届出が必要です。

また、労働協約による場合等を除き、協定には

有効期間

を定めます。


フレックスタイム制

清算期間によって扱いが違います。

清算期間1か月以内

→ 届出不要

清算期間1か月超3か月以内

→ 届出必要

清算期間が1か月を超える協定については、

有効期間も定める必要があります。


1年単位の変形労働時間制

法32条の4

労使協定を締結したうえで、

所轄労働基準監督署長への届出

が必要です。


1週間単位の非定型的変形労働時間制

法32条の5

労使協定を締結し、

所轄労働基準監督署長へ届け出る

必要があります。

36協定

法36条

時間外労働・休日労働をさせる場合には、

36協定の締結+届出

が必要です。

ここは他の労使協定と大きく違う重要ポイントなので、後で詳しく説明します。


事業場外労働のみなし労働時間制

法38条の2

労使協定の締結自体は必須ではなく、事業場外労働について通常必要とされる時間を協定で定めることができます。

その協定で定めた時間が

法定労働時間を超える場合

には、届出が必要です。


専門業務型裁量労働制

法38条の3

専門業務型裁量労働制を導入する場合には、

労使協定の締結および届出

が必要です。

現在も厚生労働省が専用の「専門業務型裁量労働制に関する協定届」を設けています。


届出が不要な労使協定

一方、次の労使協定については、締結は必要でも、

労働基準監督署への届出は不要

労使協定 根拠
賃金の一部控除 法24条1項
フレックスタイム制(清算期間1か月以内) 法32条の3第4項ただし書
休憩の一斉付与の例外 法34条2項
代替休暇 法37条3項
年次有給休暇の時間単位付与 法39条4項
年次有給休暇の計画的付与 法39条6項
年次有給休暇中の賃金を標準報酬日額で支払う場合 法39条9項

つまり、

「労使協定を締結すること」 = 「必ず労基署へ届け出ること」

ではありません。


届出義務はあるが、届出自体が効力発生要件ではないもの

ここも整理しておくと分かりやすいです。

例えば、

  • 1か月単位の変形労働時間制
  • 清算期間1か月超のフレックスタイム制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • 一定の事業場外労働のみなし労働時間制
  • 専門業務型裁量労働制

では、法律上、労使協定の届出義務が設けられています。

そして、これらの届出義務違反については、法120条により、

30万円以下の罰金

の対象となり得ます。法120条には、32条の2第2項やこれを準用する各規定、38条の2第3項等の違反が列挙されています。

ただし、

36協定とは、届出の法的意味が異なります。


36協定は「届出」までして初めて効果が生じる

36協定については、

労使で協定書にサインしただけでは足りません。

法36条は、

労使協定を締結し、行政官庁に届け出た場合

に、法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働を認める仕組みになっています。

したがって、

36協定締結 + 労基署への届出 = 時間外・休日労働についての労基法上の免罰効果

という関係になります。


36協定は「締結した日」からではない

例えば、

36協定の有効期間

4月1日~翌年3月31日

としていたとしても、

実際に労働基準監督署へ届け出たのが

4月9日 だった場合、

4月1日~4月8日については、36協定による労基法上の効果は発生していません。

したがって、その間に法定労働時間を超える労働をさせれば、

36協定なしで時間外労働をさせた場合と同様

に法32条等の違反となり得ます。

法32条等の違反については、

6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金

が定められています。(法119条)


「36協定を届けなかった罪」ではない

ここも区別しておきます。

36協定について問題になるのは、

単に「届出書を出さなかったから処罰される」

という構造ではありません。

届出をしていない以上、法36条による時間外・休日労働の適法化がされていないため、

その状態で法定労働時間を超えて働かせることが、法32条等の違反になる

という仕組みです。

したがって、

36協定を締結したが未届出 + 時間外労働をさせた

場合には、

36協定を締結していない状態で時間外労働をさせたのと同じ

と考えるのがポイントです。厚生労働省も、労使協定を定めて行政官庁に届け出た場合に法定時間外・休日労働が認められると説明しています。


労使協定と就業規則は別物

最後に、この2つも混同しないようにします。

労使協定

使用者と労働者側代表との合意 です。

 

就業規則

使用者が事業場の労働条件や服務規律などを定める規則 です。

例えば、1か月単位の変形労働時間制は、

労使協定または就業規則等

によって導入することができます。

一方、36協定は、

就業規則だけでは代用できません。

必ず労働者側との36協定が必要です。

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