労働基準法
基本原則

まとめ

  • 法2条:「対等の立場」は実質的対等。ただし組合・団交までは不要。
  • 法4条:男女同一賃金。対象は賃金のみ
  • 賃金以外の性差別は、労基法4条ではなく均等法などの問題。
  • 法7条:公民権行使・公の職務執行は拒否不可。
  • ただし、妨げがなければ時刻変更は可能。
  • 他候補者の選挙運動、個人的な訴訟は公民権行使に該当しない。

 

目 次

  1. 労働条件の決定
  2. 均等待遇
  3. 男女同一賃金の原則
    1. 女性であることを理由
  4. 公民権行使の保障

労基法2条1項は、

労働条件は、労働者と使用者が対等の立場で決定すべき

という原則です。

ここでいう「対等」は、形式上だけでなく、実質的な対等を意味します。

ただし、法2条は原則を示す規定であり、

  • 労働組合があること
  • 団体交渉で決めること

までは要求していません。

 

均等待遇

法3条
 
使用者は、労働者国籍信条または社会的身分理由として、賃金労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

この条文(労働基準法3条)は、日本の労働法における「差別禁止」の基本原則を定めています。

ポイントは、「どんな理由による差別が禁止されるのか」と、「どこまでが禁止されるのか」です。
 

1. 労働基準法3条の意味

 

会社は、

  • 外国人だから
  • 特定の思想を持っているから
  • 生まれや身分によって

労働条件を不当に変えてはいけない、というルールです。

ここでいう「労働条件」には、

  • 賃金
  • 昇給
  • 労働時間
  • 配置
  • 福利厚生
  • 解雇条件

などが含まれます。


2. 「国籍・信条・社会的身分」とは

 

国籍

外国人であることを理由に、

  • 日本人より低賃金
  • 昇進させない
  • 有給を与えない

などを行うことは禁止されます。

ただし、在留資格上できない業務がある場合など、法律上の制限に基づく区別は別問題です。


信条

 

「政治思想」「宗教」「労働組合思想」などです。

例えば、

  • 特定政党支持者だから減給
  • 宗教を理由に昇進拒否

などは原則違法になります。


社会的身分

 

本人の意思では変えにくい社会的地位です。

例えば、

  • 被差別部落出身
  • 家柄
  • 身分的経歴

などが典型例です。

単なる「会社内の地位」は通常ここに含まれません。


3. 「職制上の地位」は3条の差別ではない

 

ここが実務上かなり重要です。

  • 正社員
  • 契約社員
  • パート
  • 工員
  • 職員

などの区別は、「社会的身分」ではなく、会社の制度上の区分と考えられています。

そのため、

  • 正社員だけ賞与あり
  • アルバイトは時給制
  • 職員はスーツ、工員は制服

という扱いの違いだけでは、直ちに労基法3条違反にはなりません。


4. ただし「何をしてもよい」わけではない

 

ここが近年かなり重要です。

現在は、

  • パートタイム・有期雇用労働法
  • 労働契約法
  • 同一労働同一賃金

の考え方があります。

そのため、

  • 正社員とアルバイトで仕事内容がほぼ同じ
  • 責任も同じ
  • 配置変更範囲も同じ

なのに、

  • 賞与ゼロ
  • 手当ゼロ
  • 福利厚生全部なし

だと、「不合理な待遇差」と判断される可能性があります。

つまり、

「区別があること自体」は違法ではない
しかし「合理性のない差」は問題になる

という構造です。

 


5. 三菱樹脂事件とは何か

 

これは非常に有名な判例です。

 

事案

 

三菱樹脂株式会社が採用時に、

  • 学生運動歴
  • 政治活動歴

などを調査しました。

労働者側は、

  • 思想信条の自由侵害
  • 労基法3条違反

を主張しました。


6. 最高裁の判断

 

最高裁は、

労基法3条は「採用」の話

と判断しました。

つまり、

労基法3条は「雇った後の労働条件差別」を禁止しているのであって、
「採用するかどうか」までは規制していない

という考え方です。

これはかなり重要です。


7. 企業には「採用の自由」がある

 

判例は、

企業には誰を採用するか自由がある

という立場を強く取りました。

そのため、

  • 思想
  • 信条
  • 政治活動

を理由に採用拒否しても、直ちに違法ではないとしました。


8. なぜそんな判断になったのか

 

判例は当時の日本的雇用を重視しています。

特に、

  • 終身雇用
  • 長期的人間関係
  • 企業秩序

を前提に、

会社が「組織になじめる人か」を確認する合理性がある

と考えました。

つまり、

「単なる労働力の売買ではなく、長期的人間関係だから」

という理屈です。


9. ただし現在では評価が分かれる

 

この判例は今でも重要ですが、現在ではかなり批判もあります。

理由は、

  • 個人情報保護
  • プライバシー権
  • 思想良心の自由
  • 人権意識の変化

が進んだからです。

現在では、

  • SNS調査
  • 思想調査
  • 家族調査

などは、実務上かなり慎重さが求められます。

また、

  • 個人情報保護法
  • 職業安定法
  • 厚労省指針

などで、収集してよい情報にも制限があります。


10. 現代実務での理解

 

現在の実務では、次のように整理するとわかりやすいです。

 

労基法3条

→ 採用後の差別禁止

 

採用時

→ 原則「採用の自由」がある

ただし近年は人権・個人情報保護で制約が強化

 

正社員と非正規

→ 区別自体は可能

ただし「不合理な待遇差」はNG

労基法4条は、

女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない

という規定です。

重要なのは、労基法4条の対象は賃金のみという点です。

差別の対象 労基法4条
賃金 違反になり得る
採用・配置・昇進・教育訓練など 労基法4条ではなく、男女雇用機会均等法などの問題

また、「女性を理由とする差別」が対象なので、単なる能力・職務内容・勤続年数など合理的理由による賃金差は、当然に4条違反とはなりません。

女性であることを理由

 

女性であることを理由として」とは、労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念としてまたは当該事業場において女性労働者が一般的または平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないことなどを理由とすることの意であり、これらを理由として、女性労働者に対し賃金に差別をつけることは違法である。(昭和22年9月13日発基17号、平成9年9月25日基発648号)

 

つまり、形式上は「能力差」と言っていても、

  • 女性一般への偏見
  • 平均論
  • 性別役割分担意識

に基づけば違法になり得ます。

 

「力が強い」はどう扱われるのか

  • 実際に筋力が必要
  • 業務遂行上必要不可欠
  • 個々人の能力評価をしている

のであれば、

「力仕事を多く担当している者に手当を支給する」

こと自体は、通常は違法ではありません。

これは「性別」ではなく、
「職務内容・技能・負荷」に基づく賃金差だからです。

たとえば、

  • 男性でも非力なら対象外
  • 女性でも十分な筋力があり業務を担えば対象

という運用なら、性差別とは評価されにくいです。

労基法7条は、労働者が労働時間中に、

  • 公民としての権利を行使する
  • 公の職務を執行する

ために必要な時間を請求した場合、使用者は拒めない、という規定です。

ただし、権利行使・職務執行を妨げない限り、請求された時刻を変更することは可能です。

 

 

公民としての権利に該当するもの

該当する 該当しない
選挙権 個人としての訴権の行使
被選挙権 他候補者のための選挙運動
最高裁裁判官の国民審査  
住民の直接請求  
民衆訴訟  
選挙・当選に関する訴訟
 
 

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