通勤災害の認定

通勤災害とは、労働者が通勤によって負傷し、疾病にかかり、障害を負い、または死亡した場合の災害をいいます。(労災保険法7条1項3号)

通勤災害と認められるためには、単に出勤・退勤の途中で事故に遭っただけでは足りず、次の要件を満たす必要があります。

  • 就業に関連する移動であること
  • 法律上の「通勤」に該当すること
  • 合理的な経路および方法による移動であること
  • 通勤に通常伴う危険が具体化したものであること
  • 原則として、経路の逸脱または移動の中断がないこと

会社に届け出ている経路と異なる場合でも、一般的・合理的な経路であれば、通勤と認められることがあります。


複数事業労働者の通勤災害

「複数業務要因災害」とは、複数事業労働者について、2以上の事業における業務上の負荷を総合的に評価して認定される負傷、疾病、障害または死亡をいいます。

一方、複数事業労働者が通勤中に被った災害は、あくまで「通勤災害」に該当し、「複数業務要因災害」には該当しません。(労災保険法7条1項、令和2年8月21日基発0821第1号)

 

 

ポイント

  1. 通勤とは、就業に関する合理的な経路・方法による移動である
  2. 会社への届出経路と異なっても、合理的であれば認められる
  3. 通勤途中の事故でも、通勤に通常伴う危険の具体化でなければならない
  4. 逸脱・中断中は、原則として通勤ではない
  5. 私的な逸脱・中断後は、原則として通勤に戻らない
  6. 日常生活上必要な行為による最小限度の逸脱・中断であれば、通常経路へ戻った後は通勤となる
  7. 住居の範囲は、一般人が自由に通行できる場所との境界で判断する
  8. 複数事業労働者の通勤中の災害は、複数業務要因災害ではなく通勤災害である
  9. 通勤による疾病は、通勤との因果関係が明らかであることが必要である

 

覚え方

通勤災害は、
「就業との関連」
「合理的な経路・方法」
「通勤に伴う危険の具体化」
「逸脱・中断の有無」
の4点を確認する。

 

目次

  1. 「通勤による」とは
  2. 「通勤」とは
  3. 「就業に関し」とは
  4. 住居と就業の場所との間の往復とは
  5. 「合理的な経路及び方法」とは
  6. 「逸脱・中断」の取扱い(例外)
  7. 「日常生活上必要な行為」とは
  8. 通勤による疾病

「通勤による」とは

「通勤による」とは、通勤と災害との間に相当因果関係があること、すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいいます。

(昭和48年11月22日基発644号)

 

通勤によると認められる例

  • 通勤途中にひったくりに遭った場合
  • 特別な怨恨関係などがなく、帰宅途中に暴漢に襲われた場合
  • 徒歩通勤中に野犬にかまれた場合
  • 建設現場から落下した物体により負傷した場合
  • タンクローリーから流出した有害物質により急性中毒となった場合
  • 通勤中に自動車にはねられた場合
  • 電車の急停車により転倒した場合
  • 駅の階段から転落した場合
  • 自動車の発進を促すためクラクションを鳴らしたことに起因する災害
  • 積雪道路で、通行の妨げとなっている車両の救助中に負傷した場合

 

通勤によると認められない例

  • 通勤途中の自殺
  • 怨恨をもって自らけんかを仕掛けて負傷した場合
  • 通勤途中に急性心不全を発症したものの、通勤に関連する突発的・異常な出来事がなかった場合

通勤途中に発病したというだけでは、当然に通勤災害になるわけではありません。通勤による負傷や突発的な出来事と疾病との因果関係が必要です。


 

「通勤」とは

通勤とは、労働者が就業に関し、次の移動を合理的な経路および方法によって行うことをいいます。ただし、業務そのものの性質を有する移動は除かれます。(労災保険法7条2項)

 

通勤に該当する移動

  1. 住居と就業場所との間の往復
  2. 第1の就業場所から第2の就業場所への移動
  3. 単身赴任者などにおける住居間の移動

 

典型例

  • 自宅から勤務先への出勤
  • 勤務先から自宅への帰宅
  • ダブルワークで、第1の勤務先から第2の勤務先へ移動する場合
  • 単身赴任先の住居と家族の住居との間を移動する場合

 

「就業に関し」とは

「就業に関し」とは、業務に就くため、または業務を終えたことによって移動することをいいます。(昭和48年11月22日基発644号)

移動が業務と密接な関連をもっていることが必要です。

本人が途中で私用を行う意思を有していた場合でも、事故発生時点で通常の合理的な通勤経路上にあり、まだ私用による逸脱・中断が始まっていなければ、通勤と認められることがあります。

 

就業に関すると認められる例

  • 寝坊による若干の遅刻
  • ラッシュを避けるための早出
  • 就業開始前の労働組合集会に参加するため、通常より約1時間30分早く出勤した場合
  • 日雇労働者が紹介を受けた後、就業予定の事業場へ向かう場合
  • 業務終了後、事業場内で短時間の囲碁、麻雀、サークル活動、組合活動をした後に帰宅する場合
  • 車のライトの消し忘れに気付き、駐車場所へ戻る途中の事故
  • 昼休みに一度帰宅し、午後の勤務のため再出勤する場合
  • 所定終業時刻前に早退して帰宅する場合
  • 単身赴任者が、勤務日の前日などに赴任先住居へ移動する場合
  • 単身赴任者が、勤務終了日の翌日などに帰省先住居へ移動する場合

 

就業に関すると認められない例

  • 休日に会社の運動施設を利用するために出掛ける場合
  • 参加が任意の会社行事に参加する場合
  • 任意の同僚との懇親会や送別会に参加する場合
  • 一般組合員が労働組合大会に参加する場合
  • 運動部の練習など私的目的で、就業開始時刻より著しく早く会社へ行く場合
  • 第2の勤務先へ、始業時刻とかけ離れた時刻に移動する場合
  • 日雇労働者が仕事の紹介を受けるため、住居からハローワークへ向かう場合
  • 業務終了後、約6時間にわたり事業場内に滞留した後に帰宅する場合

住居と就業の場所との間の往復とは

「住居」とは

住居とは、労働者が日常生活を営み、就業のための拠点としている場所をいいます。(昭和48年11月22日基発644号)

 

住居と認められる例

  • 配偶者の看護のため、1日おきに寝泊まりしている病院
  • 単身赴任者の赴任先住居
  • 反復・継続して帰省する家族の住居
  • 早出や長時間残業の際に利用する別のアパート
  • 台風、交通機関の運休、長時間残業などにより一時的に宿泊した場所

単身赴任者などの家族の住居については、おおむね毎月1回以上の反復・継続した往復がある場合、住居と認められることがあります。

 

住居と認められない例

  • 友人宅で麻雀をし、その翌朝、友人宅から直接出勤する場合

 

住居と通勤経路の境界

住居と通勤経路との境界は、一般人が自由に通行できる場所かどうかによって判断されます

  • アパート:各住戸の外戸
  • 一戸建住宅:門

そのため、アパートの共用階段での事故は通勤災害となる可能性があります。

一方、一戸建住宅では、門の内側は原則として住居の範囲であり、玄関前や敷地内での事故は通勤災害に該当しないことがあります。


合理的な経路および方法

合理的な経路および方法とは、その移動について、一般に労働者が利用すると認められる経路や交通手段をいいます。(平成28年12月28日基発1228第1号)

会社への届出経路だけに限定されるものではありません。

 

合理的と認められる例

  • 会社に届け出ている鉄道・バスの経路
  • 通常の経路に代わる別の一般的な経路
  • タクシー利用時に考えられる複数の通常経路
  • 道路工事やデモ行進のための迂回路
  • 通勤用の駐車場を経由する経路
  • 子どもを託児所や親族宅に預けるための経路
  • 通勤経路の延長上にある配偶者の勤務先へ送り届け、勤務先へ戻る経路

単なる免許証不携帯や免許更新忘れ、一定の飲酒運転については、直ちに経路・方法の合理性が否定されない場合があります。

ただし、事情に応じて保険給付の支給制限が行われることがあります。

 

合理的と認められない例

  • 理由なく著しく遠回りする経路
  • 鉄道線路、鉄橋、トンネル内を歩行する場合
  • 一度も運転免許を取得したことがない者による自動車運転
  • 泥酔状態で自動車や自転車を運転する場合

 

「合理的な経路及び方法」とは

 

合理的な経路および方法とは、その移動について、一般に労働者が利用すると認められる経路や交通手段をいいます。(平成28年12月28日基発1228第1号)

会社への届出経路だけに限定されるものではありません。

 

合理的と認められる例

  • 会社に届け出ている鉄道・バスの経路
  • 通常の経路に代わる別の一般的な経路
  • タクシー利用時に考えられる複数の通常経路
  • 道路工事やデモ行進のための迂回路
  • 通勤用の駐車場を経由する経路
  • 子どもを託児所や親族宅に預けるための経路
  • 通勤経路の延長上にある配偶者の勤務先へ送り届け、勤務先へ戻る経路

単なる免許証不携帯や免許更新忘れ、一定の飲酒運転については、直ちに経路・方法の合理性が否定されない場合があります。

ただし、事情に応じて保険給付の支給制限が行われることがあります。

 

合理的と認められない例

  • 理由なく著しく遠回りする経路
  • 鉄道線路、鉄橋、トンネル内を歩行する場合
  • 一度も運転免許を取得したことがない者による自動車運転
  • 泥酔状態で自動車や自転車を運転する場合

「逸脱・中断」の取扱い(例外)

労働者が通勤経路を逸脱し、または移動を中断した場合、その逸脱・中断中および原則としてその後の移動は通勤とはなりません。

ただし、逸脱・中断が、日常生活上必要な行為をやむを得ない理由により行うための最小限度のものである場合には、通常の経路へ戻った後の移動は、再び通勤と認められます。(労災保険法7条3項)

 

重要な整理

  • 逸脱・中断している最中
    → 通勤ではない
  • 私的な逸脱・中断の後
    → 原則として、その後も通勤ではない
  • 日常生活上必要な行為による最小限度の逸脱・中断
    → その行為中は通勤ではないが、経路復帰後は通勤となる

したがって、

「中断または逸脱の間は通勤ではないが、その後は常に通勤となる」

という理解は誤りです。

経路復帰後に通勤へ戻るのは、日常生活上必要な行為をやむを得ない理由で最小限度行った場合に限られます。


逸脱・中断に該当する例

  • 途中で麻雀をする
  • 映画館に入る
  • バーやキャバレーで飲酒する
  • デートのため長時間話し込む
  • 飲食店で長時間過ごす
  • 経路を外れて占い店へ入り、長時間占いをしてもらう

 

逸脱・中断に該当しない、ささいな行為

  • 経路付近の公衆便所を使用する
  • 経路付近の公園で短時間休憩する
  • 経路上の店でタバコや雑誌を買う
  • 駅構内でジュースを立ち飲みする
  • 経路上の店で短時間、お茶やビールを飲む
  • 経路上の露店で、ごく短時間占いをしてもらう

「日常生活上必要な行為」とは

日常生活上必要な行為として、法令上認められているものには、次のものがあります。(労災保険法施行規則8条)

 

1 日用品の購入その他これに準ずる行為

認められる例

  • 帰宅途中に惣菜や食料品を購入する
  • 独身者が食堂で食事をする
  • クリーニング店に立ち寄る
  • 理髪店や美容院に立ち寄る

認められない例

  • 単なる喫茶店への立寄り

 

 

2 職業能力の開発・向上に資する教育訓練

認められる例

  • 職業訓練
  • 専修学校における教育
  • 大学などで職業能力の向上に資する教育を受ける場合

認められない例

  • 茶道、華道
  • 自動車教習所
  • 一般的な予備校

会社が費用の一部を負担している場合でも、当然に認められるわけではありません。

 

 

3 選挙権の行使その他これに準ずる行為

投票所へ向かうための逸脱・中断は、日常生活上必要な行為となり得ます。

ただし、投票中の災害そのものは、通勤災害とは認められません。

 

 

4 病院・診療所で診察または治療を受ける行為

認められる例

  • 通常の診察・治療
  • 人工透析
  • 柔道整復師による施術
  • あん摩、マッサージ、指圧
  • はり、きゅう

 

 

5 要介護状態にある家族の介護

対象となる家族は、次のとおりです。

  • 配偶者
  • 父母
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹
  • 配偶者の父母

介護は、継続的または反復して行われるものに限られます。

例えば、帰宅途中に、父の介護のため定期的に兄の家へ立ち寄る場合などが該当します。

初回の介護であっても、客観的にみて今後も継続・反復して行う予定がある場合には、対象となることがあります。


 

通勤による疾病(法22条1項)

 

業務上疾病との違い

 

項目 業務上の疾病 通勤による疾病
主な根拠 労働基準法施行規則別表第1の2 労災保険法施行規則18条の4
疾病の例示 具体的な例示列挙がある 具体的な例示列挙はない
判断方法 別表該当性を中心に判断 通勤との因果関係を中心に判断
主な対象 職業性疾病、災害性疾病など 通勤による負傷に起因する疾病など

重要ポイント

① 業務上の疾病

  • 別表で具体例が列挙されている

  • 判断の出発点は「別表に該当するか」

  • 職業性疾病(じん肺、化学物質ばく露など)が中心

条文・別表ベースで判断する世界


② 通勤による疾病

  • 例示列挙がない

  • 「通勤による負傷が原因か」「通勤との因果関係が明らかか」が判断基準

  • 実質的な 因果関係判断 が重視される

事実関係・因果関係ベースで判断する世界


ひとことで整理すると

  • 業務上疾病
     →「別表にあるか」を見る

  • 通勤疾病
     →「通勤との因果関係が明らかか」を見る​

通勤に起因することの明らかな疾病には転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合などがあります(昭和48年11月22日基発644号)

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