直接払いの原則・全額払の原則

直接払の原則

 

賃金は、直接労働者に支払わなければならない。(法24条1項)

  • 使者への支払を除けば、「直接払の原則には例外規定は設けられていません

 

(昭和63年3月14日基発150号)
​労働者の親権者その他の法定代理人支払うこと、または労働者の委任を受けた任意代理人支払うことは、いずれも法24条違反となり、労働者が第三者に賃金受領権限を与えようとする委任代理などの法律行為は無効である。

  • 直接払の原則は、事業主が労働者個々人にじかに賃金を手渡すことを要求するものではない。したがって、係長などに支払事務の補助を命じ、これらの者をして事業主のために労働者に賃金を手渡させることは、これらの者が使用者の立場において行うものであるため許される

 

(昭和61年6月6日基発333号)
派遣中の労働者の賃金を派遣先の使用者を通じて支払うことについては、派遣先の使用者が、派遣中の労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことのみであれば、直接払の原則には違反しない

  • 行政官庁国税徴収法の規定に基づいて行った差押処分に従って、使用者が労働者の賃金を控除のうえ当該行政官庁に納付することは、いわゆる直接払の原則に抵触しない国税徴収法による差押処分など国家権力が法に基づいて行うものであるため全額払の原則にも違反しません

全額払の原則

 

賃金は、原則として、その全額労働者に支払わなければならない。(法24条1項)

 

判例(昭和48年1月19日最高裁判所第二小法廷シンガー・ソーイング・メシーン事件)
 全額払の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきである。
  全額払の原則
原則 賃金はその全額労働者に支払わなければならない。(法24条1項)
例外 次の場合には、賃金一部を控除して支払うことができる。(法24条1項)

法令に別段の定めがある場合

  • 所得税等の源泉徴収社会保険料等の控除など

労使協定行政官庁への届出不要がある場合

  • 購買代金社宅費用労働組合費社内預金等の控除など

端数の取扱い①(遅刻、早退、欠勤等の場合)

 

労働者5分遅刻した場合に、30分遅刻したものとして賃金カットをするという処理は、

  1. 労務の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について法24条の賃金の全額払の原則に反し違法であるが、
  2. このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として法91条の制限内で行う場合には、

法24条の賃金の全額払の原則に反しない。(昭和63年3月14日基発150号)

5分の遅刻に対し

 

5分の減給 全額払の原則には違反しない
30分の減給 (25分については)全額払の原則に違反する
30分の減給就業規則に減給の制裁の定め 全額払の原則に違反しない

 

 

端数処理(時間・賃金)

 

区分 対象(端数処理の単位) 端数処理 具体例
時間 1賃金日における時間外労働・休日労働・深夜業の各々の時間数の合計の端数(1時間未満) 1時間単位(30分未満切捨て、30分以上切上げ) 1賃金日の時間外労働の合計が40時間30分だったとき、41時間とすること。
賃金 1時間当たりの賃金額及び割増賃金(1円未満)の端数 1円単位(50銭未満切捨て、50銭以上切上げ) 月給30万円(平均所定労働時間168時間)だったとき、30万円÷168時間=1,785.71円なので、1,786円とすること。
賃金 1賃金月における時間外労働・休日労働・深夜業の各々の割増賃金の総額の端数(1円未満) 1円単位(50銭未満切捨て、50銭以上切上げ) 1時間1,786円で、1箇月に1時間の残業があったとき、割増賃金=1,786円×1.25=2,232.5円なので、2,233円とすること。
賃金 1賃金月の賃金支払額の端数(100円未満) 100円単位(50円未満切捨て、50円以上切上げ) 月給が123,456円だったとき、123,500円とすること。
賃金 1賃金月の賃金支払額の端数(1,000円未満) 1,000円未満の翌月繰越し 月給が123,456円だったとき、456円を翌月に繰り越すこと。

端数の取扱い②(1箇月当たりにおける時間数の端数)

 

1箇月」における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨てそれ以上を1時間に切り上げることは法24条及び法37条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

  • 1箇月における時間外労働休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合の端数処理であり、「1日における端数処理ではありません

 

具体例

 次のような場合は、適法となる。

  •  1箇月の時間外労働を、40時間30分→41時間、40時間29分→40時間
  •  1箇月の休日労働を、8時間30分→9時間、8時間29分→8時間

 

 参照 → 端数処理(時間・賃金)

端数の取扱い③(1時間当たりにおける端数)

 

1時間」当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨てそれ以上を1円に切り上げることは法24条及び法37条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

  • 端数を全て切り捨てることは法違反です

 

具体例
 月給30万円であり、1箇月の平均所定労働時間が168時間の場合、次の取扱いは適法となる。

 

  •  1時間あたりの賃金は30万円÷168時間=1,785.71円なので、これを四捨五入して1,786円とすること

 

参照 → 端数処理(時間・賃金)

端数の取扱い④(1箇月当たりの割増賃金の端数)

 


1箇月」における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨てそれ以上を1円に切り上げることは法24条及び法37条違反とはしない

 

具体例
 月給30万円であり、1箇月の平均所定労働時間が168時間の場合において、1時間の残業があったときにおいて、次の取扱いは適法となる。

 

  •  1時間あたりの賃金は、30万円÷168時間=1,785.71円なので、これを四捨五入して1,786円とし、1,786円×1.25=2,232.5円なので、これを四捨五入して2,233円とすること

 

 参照 → 端数処理(時間・賃金)

 

端数の取扱い⑤(1箇月の賃金支払額における端数)

 

 

1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨てそれ以上を100円に切り上げ支払うことは法24条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

 

1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除後の額)に生じた1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことは法24条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

  • かつては現金で給与を支給していたため、「事務処理の効率化としてこのような処理が認められています

 参照 → 端数処理(時間・賃金)

 

全額払の原則と不法行為

 

全額払の原則」は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であるが、このことは、不法行為を原因としたものであっても変わりはないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和36年5月31日最高裁判所大法廷日本勧業経済会事件)

  • 会社側が労働者の不法行為に対する損害賠償債権を有していたとしても賃金とこの損害賠償債権を相殺することは許されず賃金は賃金として全額支払わなければならないということです

倒産した会社の金品を勝手に投資者に返済した労働者がいました。これは労働者の会社に対する背信行為として、会社は損害賠償請求権を有することになりますが、この場合であっても、この損害賠償請求権と労働者の賃金債権との相殺は許されないことになります。(昭和36年5月31日最高裁判所大法廷日本勧業経済会事件)

 

判例(昭和36年5月31日最高裁判所大法廷日本勧業経済会事件)
 労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、労働政策の上から極めて必要なことであり、労働基準法24条1項が、賃金は同項但書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わねばならない旨を規定しているのも、右にのべた趣旨を、その法意とするものというべきである。
 しからば同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない

賃金の過払いがあった場合(調整的相殺)

 


適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、法24条1項ただし書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、全額払の原則に違反するものではない。したがって、賃金の過払いのあった場合、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、かつ、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合には、賃金の「全額払の原則には違反しな。(昭和44年12月18日最高裁判所第一小法廷福島県教組事件)

 

  1. 公立学校Yでは、「勤勉手当」を支給していましたが、
  2. ストライキ期間、欠勤したにもかかわらず、教職員Xらに、給与と勤勉手当の全額を支給したため、
  3. 教職員Xらに対しそれぞれ過払金の返納を求め、かつ、この求めに応じないときは給与から過払金を減額する旨の通知をしたうえで、
  4. それぞれ給与から控除を行いました。
  5. 教職員Xらは、控除された金額の支払を求めて訴えを提起しました。

 

判例(昭和44年12月18日最高裁判所第一小法廷福島県教組事件)
 公立学校Yの行った所論給与減額は、公立学校YがXらに対して有する過払勤勉手当の不当利得返還請求権自働債権とし、Xらの公立学校Yに対して有する昭和34年2月分または3月分の給与請求権受働債権としてその対当額においてされた相殺であると解せられる。
 しかるところ、本件につき適用さるべきものであった労働基準法24条1項では、賃金は、同項但書の場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨定めており、その法意は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策上から極めて必要であるとするにあると認められ、従って、右規定は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。
 しかし、賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払われることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたとき、または、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場合、これを精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとっても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払わるべき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。
 このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、法24条1項ただし書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期方法金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、全額払の原則に違反するものではない
 この見地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。

合意による相殺があった場合

 


労働者がその自由な意思に基づき当該相殺に同意した場合において、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、いわゆる賃金の全額払の原則に違反するものとはいえないものと解するのが相当であるとするのが最高裁判所の判例である。
(平成2年11月26日最高裁判所第二小法廷日新製鋼事件)

 

  • 労働者Xは、Y社に在職中、退職した場合には残金一括償還の約定で、Y社及び銀行等から住宅資金を借り入れていました。労働者Xはその後借財を重ね、負債の返済に追われました。破産申立てをするほかない状態になったことから、Y社に対し、退職したい旨を申し出ました。
    労働者Xは、退職によって一括償還義務が生ずる借入金を返済しなければ、連帯保証人に迷惑をかけることになるため、自己の退職金給与等をもって返済しておきたいと申し出て、Y社に対し、各借入金の残債務を退職金等で返済する手続をとってくれるように依頼しました。
    Y社は従来からの労使間の協議に従い、退職する従業員から同意を個別的に得るとともに、労働者Xから自己の退職金をもって借入金を一括返済する手続を行うための委任状の提出を受けた。その後、労働者Xは破産の申立てをし、Aを破産管財人に選任した。
    破産管財人Aは、Y社が労働者Xの退職金から借入金の残債務を支払ったことは、賃金の「全額払の原則に反するとして、Y社に対し労働者Xの退職金等の支払いを請求する訴えを提起した。

 

判例(平成2年11月26日最高裁判所第二小法廷日新製鋼事件)
 法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき当該相殺に同意した場合においては、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、当該同意を得てした相殺は当該規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である。もっとも、右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところである。

 

賞与の在籍日支給

 


賞与を支給日に在籍している者に対してのみ支給する旨のいわゆる「賞与支給日在籍要件を定めた就業規則の規定は合理的理由を有し有効であり、支給日の直前に退職した労働者に賞与を支給しないことは、賃金全額払の原則に違反しないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和57年10月7日最高裁判所第一小法廷大和銀行事件)

  • 労働者Xは、Y銀行を退職しました。Y銀行は毎年6月及び12月にその従業員に賞与を支給しました。Y銀行には従来から賞与はその支給日に在籍する者に対してのみ支給するという慣行が存在しており、労働組合の申入れを受け、就業規則に当該慣行を明文化させていました。
     しかし、労働者Xは、賞与の支給日に先立って退職していたため、賞与は支給されませんでした。そこで労働者Xは、Y銀行に対し、賞与の支払いを求めて訴えを提起しました。

 

判例(昭和57年10月7日最高裁判所第一小法廷大和銀行事件)
 Y銀行においては、本件就業規則32条の改訂前から年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右規則32条の改訂は単にY銀行の従業員組合の要請によって右慣行を明文化したにとどまるものであって、その内容においても合理性を有するというのであり、右事実関係のもとにおいては、Xは、Y銀行を退職したのちである昭和54年6月15日及び同年12月10日を支給日とする各賞与については受給権を有しないとした原審の判断は、結局正当として是認することができる。

 

出張・外勤拒否があった場合

 


業務命令によって指定された時間その指定された出張外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたものとはいえず、また、使用者は、本件業務命令を事前に発したことにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、労働者が提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、使用者は、労働者に対しその時間に対応する賃金の支払義務を負うものではないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和60年3月7日最高裁判所第一小法廷水道機工事件)

  • 労働者Xらの属する労働組合は外勤・出張拒否闘争を行っていました。労働者Xらはこの間、Y社の時間指定の外勤・出張命令を拒否し、もっぱら内勤業務に従事しました。
    これに対しY社は労働者Xらの賃金からそれぞれ拒否した外勤出張時間分の賃金を控除しました。
    労働者Xらは、内勤業務には従事しているのだから、賃金控除を受けるいわれはないとし、訴えを提起しました。

 

判例(昭和60年3月7日最高裁判所第一小法廷水道機工事件)
 本件業務命令は、組合の争議行為を否定するような性質のものではないし、従来の慣行を無視したものとして信義則に反するというものでもなく、Xらが、本件業務命令によって指定された時間、その指定された出張・外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたものとはいえず、また、Y社は、本件業務命令を事前に発したことにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、Xらが提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、Y社は、Xらに対し右の時間に対応する賃金の支払義務を負うものではない

 

登録支援/有料職業紹介のご相談はこちら

 

お問い合わせはこちらから

芸術家×起業家

 

お     一般社団法人芸商橋
 

               BusinessArtBridge

 

サイト内検索

サイドメニュー

パソコン|モバイル
ページトップに戻る