制裁規定の制限

減給の制裁の制限

使用者は、企業秩序を維持するため、就業規則において

  • 戒告
  • 譴責(けんせき)
  • 減給
  • 出勤停止
  • 昇給・昇格の停止
  • 降格
  • 懲戒解雇

などの懲戒処分を定めることができます。(なお相対的記載事項)

このうち、減給の制裁については、労働者の生活に過度な影響を与えないよう、労働基準法91条により上限が定められています。

 

① 1回の事案についての減給額

1回の事案について減給できる額は、

平均賃金の1日分の半額まで です。

例えば、

の場合、1回の事案について減給できる額は、

10,000円 × 1/2 = 5,000円

までとなります。


② 一賃金支払期における減給総額

複数の事案について減給する場合でも、一賃金支払期における減給の総額は、

その賃金支払期における賃金総額の10分の1まで

とされています。

例えば、

  • 賃金総額:300,000円
  • 1事案あたりの減給額:5,000円
  • 8事案発生

した場合、

5,000円 × 8事案 = 40,000円

となります。

しかし、

300,000円 × 1/10 = 30,000円

が一賃金支払期における上限となるため、その月に減給できるのは30,000円までです。

制限 上限
1回の事案について 平均賃金1日分の半額
一賃金支払期の減給総額 その支払期の賃金総額の10分の1

「一賃金支払期における賃金の総額」とは

ここでいう「賃金の総額」とは、本来支払われる予定だった賃金額ではなく、その賃金支払期に現実に支払われる賃金の総額をいいます。

例えば、

  • 通常の賃金:300,000円
  • 欠勤・遅刻などによる控除後の賃金:200,000円

だった場合、減給の上限を計算する際の基準は300,000円ではなく200,000円です。

したがって、

200,000円 × 1/10 = 20,000円

となり、その賃金支払期に行うことができる減給の総額は、最大20,000円となります。

 

行政解釈(昭和25年9月8日基収1338号)

法91条は、一賃金支払期における賃金総額が欠勤、遅刻等によって減少している場合であっても、減給の総額が、その支払期に現実に支払われる賃金総額の10分の1を超えてはならないという趣旨である。

つまり、欠勤や遅刻によってすでに賃金が減少している場合には、減少後の実際の賃金額を基準として10分の1を計算することになります。


上限を超える減給は翌月以降へ繰り越す

一賃金支払期に複数の懲戒事由が発生し、減給額の合計が賃金総額の10分の1を超える場合であっても、超過部分までその月の賃金から減給することはできません。

(昭和23年9月20日基収1789号)

一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額は、その賃金支払期における賃金総額の10分の1以内でなければならず、これを超える部分については、次の賃金支払期に延ばさなければならない

したがって、懲戒処分として決定した減給額が上限を超える場合には、超過部分を次回以降の賃金支払期に繰り越して減給することになります。


 

減給の制裁に該当しないもの

次のような措置は、原則として労働基準法91条の「減給の制裁」には該当しません。

措置 考え方
遅刻・早退・欠勤した時間分の賃金を控除すること 労働の提供がなかった時間に対応する賃金を支払わないものであり、制裁としての減給ではありません。(昭和61年3月14日基発150号)
格下げ・降職に伴って賃金が低下すること 職位・職務の変更に伴う賃金の変更であり、減給の制裁とは区別されます。(昭和26年3月14日基収518号、昭和37年9月6日基発917号)
懲戒処分を受けた場合には昇給させないという定め 将来の昇給を行わない「昇給の欠格条項」であり、現在の賃金を減額するものではありません。(昭和26年3月31日基収938号)
出勤停止期間中の賃金を支払わないこと 出勤停止という懲戒処分の結果として賃金が支払われないものであり、減給の制裁とは異なります。(昭和23年7月3日基収2177号)

遅刻時間を超えて賃金をカットすることはできない

例えば、労働者が5分遅刻した場合に、30分遅刻したものとして30分分の賃金を控除することはできません。

労働しなかったのは5分間であるため、通常の賃金控除として認められるのは、原則として5分間に相当する賃金だけです。

それを超えて賃金を控除すると、労働基準法24条賃金全額払の原則に反することになります。

ただし、超過部分を単なる「遅刻控除」としてではなく、就業規則に定められた懲戒処分として減給する場合には、法91条の上限の範囲内で行うことができます。

つまり、

働かなかった時間分を差し引くこと=賃金控除
懲戒としてそれ以上の額を差し引くこと=減給の制裁

として、区別して考える必要があります。

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